誰のためのワインか
さてこれまでピノノワールにこだわってきたザンダーが、今年、はじめて投入したのがシャブリスタイルのシャルドネだ。やはり目指すのは日本食とのマッチング。シャルドネを扱うならば、シャブリのスタイルしかない。
挑戦のきっかけは納得できるシャルドネの畑に出会ったことだ。
一つはリチャード・サンフォード──サンタ・リタ・ヒルズの開拓そのものを体現する伝説的な栽培家との縁から生まれた区画。もう一つは、ソノマコーストの山中に分け入った先にある有機農園で、日本人女性のワインメーカー・栽培家、アキコ・フリーマンが所有するユウキ・ヴィンヤードだ。とりわけ、レッドウッドの森に囲まれた2006年植樹のユウキ・ヴィンヤードから果実を分けてもらえるのは、ザンダーだけだという。長年のピノノワールを通じて育まれた人間関係と信頼が、理想的な畑への扉を開いたのだ。
テイスティングの場では“ハバリ”と名付けられた上位シャルドネをグラスに注いだ瞬間に驚きを感じた。カリフォルニアのシャルドネといえば、バタリーでリッチな、そして樽がしっかり効いた白ワインが多い。その対極にある味わいなのだ。マロラクティック発酵を意図的に抑制し、リンゴ酸の鋭いキレを残すことを意識。
新樽比率はわずか10%に抑えることで、味わいの芯はしっかりとしているのに、引きがよくスッキリと口の中から消えていく。シャブリとはまた異なる。しかし、並べて比較したくなるような直線的な構造は、確かに日本食と合う。
「ハバリ」という命名にも、ザンダーらしい目配りが潜んでいる。日本の盆栽技術にある「葉張り」──葉を水平に剪定する技法──から着想を得た言葉だ。ブドウ畑の葉の管理と重なると知った瞬間、この名前に決めたという。
一方、ザンダーブランドのシャルドネはハバリより果実感があり、わずかに樽の風味が寄り添う。しかし新樽比率30%と、彼のワインでは例外的に多めでありながらオークが前に出てこない。それは醸造家のシャリニが、ブレンドの比率ではなく、ワインごとに樽を一本ずつ選び直すからだ。数字の背後に、手仕事の密度がある。
これらのシャルドネは現在、日本でしか手に入らない。
米国での販売は来年以降を予定しており、今この瞬間、日本が世界で唯一の市場だ。「日本が最初に」というザンダーの言葉は、ローンチの順序だけを指しているのではない。このワインが何のために、誰のために存在するかという、根本的な問いへの答えでもある。
日本料理の繊細さに寄り添うために10年以上をかけて磨かれたピノノワールの哲学が、白ワインというもう一つの表現軸を得た。カリフォルニアの陽光と冷涼な海風、日本人栽培家の丹念な農法、そしてブルゴーニュの醸造思想──日本の食文化がカリフォルニアワインの新しい可能性を引き出している。
かつて日本人移民がその大地を耕したように、今度は日本への深いリスペクトが、カリフォルニアのテロワールによる表現を刷新しようとしているのだ。


