食&酒

2026.04.19 10:30

元Appleエグゼクティブが10年かけて辿り着いた「和食のため」のワイン

Xander Soren Wines

日本人が作ったカリフォルニアワインの基礎

ところで、ここで少し歴史を振り返りたい。カリフォルニアワインの発展には、長澤鼎(ながさわかなえ)という幕末から昭和初期を生きた日本人がの深く関わっているからだ。彼はサンタ・ロサに一大ワイナリーを築き上げ、カリフォルニアワインの基礎を築いた。米国から英国に初めて輸出されたワインも、彼が開発したものだった。

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1983年に来日した米大統領ロナルド・レーガンが日米交流の祖として長澤の名を挙げ「カリフォルニアの葡萄王」「サムライから実業家になり、日米両国に多くをもたらした」と賞賛し、広く知られるようになったが、サンタ・リタ・ヒルズをはじめとするセントラルコーストのブドウ畑の開拓は、19世紀から20世紀初頭にかけての日本人移民たちの労働が礎となっている。

多くの日本人が関わることで開墾し、灌漑し、畑を耕していた土地が今、世界水準のピノノワールを生む産地として評価され、その葡萄を使って日本食のためのワインを、米国人のザンダーが作っているという事実は実に興味深い。

米国人が、日本文化への深いリスペクトを持ち、日本料理のためだけを念頭に、スモールバッチでワインを造る。現在の年間生産量は全品種合計で600〜800ケース。商業的な規模からすれば、限りなく小さい数字だ。しかしその一本一本に込められた意図の密度は、勤勉な日本からの移民のこだわりとも繋がっている。

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研ぎ澄まされた頂点

さて、グリーンのラベル、ソノマコーストのピノノワールは、このブランドの「入口」だ。しかし十分すぎるほど研ぎ澄まされている。日本食の繊細さの邪魔をしない。むしろ食の余白を広げる。Decanter誌が96点を与え、世界最大級のソムリエ配信プラットフォームSOMM TVが「その年の世界一のワイン」に選んだのは、この一本だ。

だがザンダー・ソーレンは、より幅広いブランドラインを手にした。同じ哲学が、より厳密に、より深く、より時間をかけて実行されている。リリースまで5年待つという熟成哲学がその象徴だ。他の米国産ピノノワール生産者が2023年や2024年ヴィンテージを市場に出している今、ザンダー・ソーレンの最新リリースは2021年だ。「ワインが飲み頃を迎えるまでリリースしない」──それはザンダーが消費者に届けたいワインを作る上での約束事であり、同時にワインに対する敬意でもある。

最高峰のルデオンは、3つのサンタ・リタ・ヒルズの畑のブレンドから生まれる。両親の名前、ルディカとレオンを合わせた命名だ。テイスティングの場で参加者の一人は「ごちゃ混ぜの香りが強い花束でぶん殴られるようなワインじゃなくて、確信を持って作り上げられた花束をそっと目の前に出されたような贅沢さ」と表現した。

理想を作り上げるために、さまざまな畑から集められた葡萄が織りなすハーモニーが作り出す余韻は特別なものだ。

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編集=安井克至

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