予算を承認するマネージャーは、まずはAIツールが生成した提案を精査する。AIのアウトプットは整然としていて、確信に満ちて見える。その提案が生成されるまでの過程を十分に理解しているわけではないが、それでもOKを出す。
組織では今、このようなかたちでAIが意思決定を下すケースがどんどん増えている。
職場でのAI活用について議論する際の話題は、相変わらず生産性が中心で、アウトプットの迅速化やコストの削減、反復作業の自動化といったことばかりだ。しかしその水面下では、もっと根本的な何かが変化している。組織において、思考が行われる仕組みが再編されつつあるのだ。
そこで、単純な疑問が湧いてくる。それは、「AIが思考を担うのなら、人間はどんな役割を果たすことになるのか」という疑問だ。
人間の判断と意思決定に、AIが与える影響
組織はほとんどの場合、タスクというレンズを通してAIにアプローチする。AIはどのようなタスクを自動化できるのか、どのようなタスクを迅速化できるのか、人員を減らせるタスクは何か、というように。
しかしAIは、タスクを実行するにとどまらず、その先へと進みつつある。目には見えない運営レイヤーとなって、意思決定の在り方や機会の分配、情報形成と情報消費の仕組みを形作るようになっている。その結果、権力の本質が変化する。なぜなら影響力が、目に見える行為者から、埋め込まれたシステムへと移行するからだ。
デジタル技術の未来を研究する米イーロン大学イマジニング・ザ・デジタルフューチャー・センター(Imagining the Digital Future Center)は、筆者を含む数百人の専門家の見解をまとめた最新報告書「The Future of Being Human in the Age of AI(AI時代における人間の未来)」を発表した。その中では、AIが媒介する世界において、人間の役割がシステムレベルでどう変容するかが浮き彫りにされている。
報告書によれば、その変容はゆっくりと積み重なるようにして起きており、あるとき突然、AIが人間に取って代わる劇的な瞬間が訪れるわけではないという。AIが日々のシステムや意思決定、サービスに組み込まれていくにつれ、人間はAI依存をどんどん強めていく。主導権をAIに譲り渡すはっきりとしたタイミングがないため、変化は見えにくく、疑問を呈することも難しい。状況は進歩しているように見えるし、効率が向上していると感じる。しかし、AIは時間とともに、職場における人間の考え方、決断の下し方、責任の負い方を変えていくのだ。
組織内における人間の主体性が侵され、自主的に考える力や判断力、責任を負う力が衰えるばかりか、共通の現状認識を育む力すら低下していく。それが現実的なリスクだ。
これこそがまさに、職場における人間の判断と意思決定に及ぼす、AIの真の影響だ。



