生成AIの導入が社会のあらゆる場面で進むなか、とりわけ大企業におけるAI活用の最大の障壁となっているのが、「信頼性」や「安全性」に対する懸念だ。AIが一過性のブームを超え、社会に真に普及していくためには、こうした課題の解決が不可欠となる。
AIの世界的ハブであるサンフランシスコでは、いま「AIアシュアランス(AI Assurance)」と呼ばれる分野が注目を集めている。これは、AIを安全かつ信頼できる形で導入・運用するために必要な技術、制度、インフラ、サービスの総称であり、AI市場そのものの成長を支える基盤として位置づけられている。
今回は、この概念を提唱し、同領域に特化した投資を行うマイクロVC、Juniper VenturesのCo-GPであるGriff BohmとNick Fitzに話を聞いた。
AIには「シートベルト」が必要
吉川絵美(以下、吉川):Juniper Venturesは「AIアシュアランス」という概念を提唱されていますが、どのような概念でしょうか?
Griff Bohm(以下、Bohm):Nickと私がよく使うのが自動車の比喩です。クルマはどんどん高速化してきましたが、それはシートベルトやブレーキといった安全装置があってこそ普及しました。AIも同様に、社会全体で安全かつ信頼できる形で活用するためには、それを取り巻く「アシュアランス(安全保証)」の仕組みが必要です。
Nick Fitz(以下、Fitz):AIアシュアランスとは、AIを信頼できる形で運用可能にするための技術や制度、インフラ、サービス全般を指します。モデルレベルでの安全性や解釈性の確保に加え、データセンターや電力といったインフラ層に至るまで、AIのサプライチェーン全体にまたがる「信頼のレイヤー」と言えるでしょう。我々のフレームワークでは、AIアシュアランスは4つのカテゴリーに分類できます。
1. AI耐性のあるITセキュリティ(データプライバシー&サイバーセキュリティ、ハードウェアセキュリティ)
2. AIの信頼性向上(データ/モデル/システム評価、外部コンプライアンス監査)
3. AIネイティブなリスク管理(品質・適合性・監査管理 、可観測性/監視/インシデント対応)
4. AI対応型デジタル真正性(IDおよびコンテンツ認証)
例えば、私たちの出資先であるGoodfire社は、AIモデルのブラックボックス(内部構造)を理解・解釈する技術を開発しています。AIが社会的にクリティカルな領域で応用されるにつれ、このような解釈性の向上は不可欠となっており、同社はその最前線にいます。
また、別の出資先であるArtificial Intelligence Underwriting Company(AIUC)は、AIエージェントの標準フレームワーク「AIUC-1」をベースに個々のAIエージェントの監査を行い、AIエージェントを活用する企業向けの保険を提供しています。
吉川:Juniper Venturesが2024年に公開したAIアシュアランス市場に関するレポートでは、同市場が2023年の16億ドルから、2030年には2760億ドル規模へと拡大すると予測されています。この市場は、AI市場全体のどの程度を占める可能性があるのでしょうか?
Bohm:我々の分析では、AIアシュアランスは最終的にAI市場全体の20〜40%を占める可能性があります。この試算は、グローバルAI市場とGRC(ガバナンス・リスク・コンプライアンス)支出との比較や、クラウド市場とサイバーセキュリティ市場の関係性など、複数の手法を用いて導きました。AIの導入が進むほど、企業は監査やリスク管理といった“保証機能”への投資を求められるようになります。



