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2026.04.24 09:30

キリンが導入した忖度なしのAI役員。12の人格が経営会議の意思決定を変える

山形光晴|キリンホールディングス

山形光晴|キリンホールディングス

『Forbes JAPAN』2026年6月号の第二特集は「AI時代の『組織変革』論」。AIツールが職場に浸透する今、問われるのは「AIを軸にした組織変革」だ。AIを使って経営の意思決定の質を高め、持続的な成長へとつなげることができるか。「AI役員」から「AIコレクティブセキュリティ」まで、5つのキーワードで日本企業の最前線に迫る。

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12の人格をもつ「AI役員CoreMate」の導入に踏み切ったキリンホールディングス。キリンを知り尽くしたAIは、経営の「意思決定のOS」をアップグレードできるのか。


キリンホールディングス(HD)の幹部が勢揃いする経営戦略会議でのことだ。今後のマーケティング戦略について議論していると、役員の手元のモニター上に鋭いコメントが表示された。

「この施策の非財務的なインパクトをどう測るのか」

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発言の主は、キリンHDが2025年7月から導入している「AI役員CoreMate(コアメイト)」だ。膨大なデータをもとに開発した経営会議支援ツールで、経営陣に忖度することなく鋭い指摘を行うとともに、新たな視点や論点を提示し議論を活発化させる。

地政学リスクやインフレ、急速な市場の変化などに伴い、企業を取り巻く経営環境は複雑さを増している。キリンHDではさまざまな打ち手を講じてきたが、「今までのやり方だけでは、多様な視点をもっていい意思決定を下すことが難しくなってきている」と、キリンHD常務執行役員で同社のデジタル・情報戦略を担当する山形光晴は話す。

変化の激しい時代に対応しつづけるためには、意思決定の質とスピードを同時に引き上げる必要がある。そのための手段として浮上したのがAIの活用だった。合言葉は「意思決定のOSをアップグレードする」だ。

コアメイトの最大の特徴は、「リスク管理に慎重な人格」「イノベーションに積極的な人格」「長期的な視点を重視する人格」など、12の異なる人格(ペルソナ)と専門分野をもたせた点にある。キリンHDの過去10年分の取締役会やグループ経営戦略会議の議事録データ、社内の重要な資料に加えてマーケットの最新動向などを読み込ませ、社内のメンバーで独自に開発した。

もちろん「つくって終わり」では済まされない。市場環境は刻一刻と変わり、AIも日々進化している。同社では四半期から半期に一度のペースでAIの学習データを見直し、質の向上に取り組んでいるという。

今でこそ経営陣に一目置かれる存在になったコアメイトだが、導入にあたり組織内で懸念がなかったわけではない。コアメイトは何をどこまで判断するのか。役員の仕事を代替するのか、それとも補助に徹するのか。「口には出さないけれど、『自分の存在意義が半減するかもしれない』という漠然とした不安を抱く役員もいたと思います」と、山形は立案したころを振り返る。

だが、それらはすべて机上の空論に過ぎない。誰も正解をもち合わせていないのだから、完璧な設計図を描いてから動くのではなく、動きながら精度を上げるのが最短の道だ。「実践しながら学ぶ」というキリンのカルチャーにも後押しされたと山形は言う。AIを活用した取り組みを推進する際に求められるのは、完璧な計画ではなく、失敗を許容する姿勢なのだ。

経営戦略会議では、役員の起案や発言に対して12の専門性をもつAI役員たちが問いを投げかける。すべての意見を取り上げると会議の進行を妨げる恐れがあるため、コアメイトに内蔵されたAIエージェントが質問を厳選し、役員の前に設置されたモニターの上部にテキスト形式で提示する。会議の参加者が「AI役員からこのような意見が出ています」と場に投げることもある。

コアメイトの仕事は会議の参加にとどまらない。山形が「特に効果を実感している」というのが会議の準備段階での「壁打ち」だ。

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文=瀬戸久美子 写真=阿部高之

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