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2026.04.24 09:30

キリンが導入した忖度なしのAI役員。12の人格が経営会議の意思決定を変える

山形光晴|キリンホールディングス

経営陣が注力すべき仕事とはなにか

25年10月から、経営陣が事前に提出した会議用の起案資料にコアメイトがS・A・B・C・D・Eの6段階評価を付与する仕組みを導入した。役員の起案に成績をつける。人間にはなかなかできない仕事だ。「思いがけない評価や指摘に思わず『えっ』と反応してしまうこともあるが、冷静に考えると、的を射た指摘だと納得することも多い」と山形は言う。コアメイトからの想定外の問いかけが、当たり前だと思い込んでいた物事を再考する機会をもたらし、役員の思考の枠と視野を広げる。

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「AIと壁打ちしながら曖昧な箇所や懸念点を事前に払拭することで、経営会議では『なぜやるのか』『何のためにやるのか』など、経営の意思に直結する問いに向き合う時間が増えました」

経営陣が注力すべきことに、より多くの時間を使えるようになる。これこそが、同社が目指すAI役員の本質的な意義だ。

キリングループは、「世界のCSV先進企業になる」というグループビジョンのもと、デジタル技術を活用した価値創造を加速させるための指針「KIRIN Digital Vision 2035」(KDV2035)を掲げている。このなかで、ビジネスの成果として掲げるのが「人がやらなくてよい仕事をゼロにする」と「人と共に価値を生み出す仕事を加速させる」だ。コアメイトは、生産性の向上と価値創造を同時に実現するための具体策のひとつといえよう。

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同時に、コアメイトは「人間の役員がやるべき仕事はなにか」と問いかける存在でもある。この問いに対する山形の答えはシンプルな言葉に集約される。「責任を取ること」と「人を動かすこと」だ。

「物事を最終的に判断し、それに伴う責任を負うことができるのは人間だけです。そして、ロジックだけでは人は動かない。経営者や役員には、経営の意思を語ることが一層求められるようになると思います」

キリンHDでは将来的に、コアメイトのグループ会社への展開も視野に入れているという。期待される成果のひとつが、本社とグローバル拠点との意思決定の質を揃えることだ。

本社と他国にある拠点やグループ会社間にある距離と時間のギャップの解消は、グローバル企業の課題のひとつだ。キリンHDのイズムを知り尽くしたコアメイトが各拠点の主要な会議に参加できるようになれば、戦略の一貫性と質を同時に高められる可能性がある。暗黙知をどこまで形式知にできるか。コアメイトは「キリンらしさ」を形式知に落とし込み、組織の知的資産を継承するための試みでもある。


山形光晴◎P&Gを経て2015年にキリン入社。キリンビバレッジおよびキリンビールのマーケティング部長、キリンホールディングス常務執行役員兼キリンビール取締役などを経て23年よりキリンホールディングス常務執行役員(デジタル・情報戦略担当)兼キリンビール副社長執行役員。

文=瀬戸久美子 写真=阿部高之

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