『Forbes JAPAN』2026年4月号に掲載され、Forbes JAPAN Webで行う新連載、カルチャーイン・カルチャーアウトから企業を読み解く企画。
なぜ、今、経営、商品開発において新たな概念が必要なのか。経営コンサルタントの大森充、クリエイティブ・ディレクター兼編集者の花井優太が生み出した仮説の背景とは。
大森充(以下、大森):私は現在、日本総合研究所でストラテジー&ソーシャルバリューグループの責任者をしています。経営戦略が経済価値だけでなく、社会価値を生むという観点で経営コンサルティングをしています。以前スタートアップ経営をしていた経験があるのですが、当時は10年後の当たり前を未来からもってきて企業価値を最大化しているモデルで経営をしてきました。一方、そのようなビジネスの多くは潮流に終わり、長く続かないおそれがあります。10年後の未来をもってきて、100年続くようなビジネスに興味があり、その秘訣をいわゆる老舗企業がもっているのではないか、と思っています。とりわけ日本には、老舗企業が多いので。
では、「なぜ、100年続いたのか」という観点でとらえなおすと、ヒット商品やヒットサービスを運よくつくれたとしても、なかなか100年は続かないわけです。であれば、何か違う概念があるのではないか、と。
経営学者のピーター・ドラッカーは、意訳をすると「経営はマーケティングとイノベーションである」と言っています。一方、これは花井(優太)さんの言葉なのですが、「市場との固定密着が進んでいく」と。市場と固定密着を100年続けるのがブランディングだとすると、今、目の前にある市場に対して変動的に密着するのがマーケティング。未来の市場に密着するのがイノベーションではないか。
そう考えると、100年続く企業は、市場に対して異なる考え方で商品やサービスを出しているのではないか。その場合、マーケットイン、プロダクトアウトとは言わずに、企業のカルチャーそのものを、アウトしたり、インしたりするのが重要ではないか、と考えています。それが僕らが考える「カルチャーイン、カルチャーアウト」の仮説です。
花井優太(以下、花井):今はモノがあふれ、モノからコトへ、コトから意味へとさまざまな言葉で市場の変化について議論されています。企業活動の多くはモノやコトを売りながら、意味で価値をふくらませるかの挑戦になっている。意味で新たな価値を生み出して売るわけです。クリエイティブディレクターの視点から見ると、「意味のつくり方」が非常に重要になっています。市場でただパイの取り合いではない企業活動が必要になりますから。
例えば、サントリーホールディングスが生んだハイボールのトレンドやジャパニーズジン「翠」のトレンドなどが新たな需要をつくった好事例だと言えるのではないでしょうか。数字やメソッド、例えばPDCAを回して最適化することが目立ちがちですが、それでは「ジンのソーダ割りなんてはやらないよ。ジンはオーセンティックなバーで飲むものじゃん」で終わってしまう可能性もある。ジンをソーダ割りで居酒屋で飲もうというのは、効率化では出てこない一枚絵の創造であり、ある種の「バグ」だと思うんです。でも、そういうものがポンっと置かれたときに、人が魅力的に思って新しい市場が形成される。その背景には、自分たちも一消費者として「お酒を飲みに行く」というサントリーの組織文化があり、N1の当事者として市場の動きを感覚として理解しようというカルチャーインの動きでもありますね。カルチャーで新たな需要を開拓できると、スタイルまで定着して新たな市場として残るものだと思います。
今回話をうかがったコクヨは、モノ、サービスよりも大きな社会に対して「好奇心屋」という新しい価値を提供しています。好奇心を刺激するにはどうしたらいいかという前提を置きながら、サービス開発、プロダクト開発をされていることから、1回目のゲストにふさわしいと思っていますね。



