欧米の制裁対象となっているロシアの石油タンカー「アナトリー・コロドキン」号が3月末、約73万バレルの原油を積載してキューバのマタンサス港に入港した。
米国が1月以降、反米の島国キューバに対し石油禁輸措置を科していることから、同国は停電や燃料不足に見舞われている。今回のロシア産燃料の到着はたとえ一時的なものであっても、即効性のある救済策となった。他方で、ロシアのタンカーの到来は、キューバに対する米国の戦略の限界について疑問を投げかけている。
ベネズエラからの供給が途絶え、米国が代替供給源の遮断を図ったことを受け、キューバにはここ3カ月間、大規模な石油供給がない。米国の戦略は単純明快だ。社会主義国キューバに対し、政治的な譲歩と構造改革を強いるのに十分な経済的圧力をかけることだ。
その圧力はキューバ全土に及んでいる。長時間にわたる停電や交通機関の混乱、生活基盤への負担は、同国が輸入エネルギーに依存していることを浮き彫りにした。キューバは国内のエネルギー供給の半分以上を輸入に頼っている。
こうした状況下で、米国の制裁対象となっているロシアのタンカーが到着するはずはなかった。ところが、それは実現した。
ロシアのタンカー入港を容認した米国のドナルド・トランプ政権は、例外的な人道支援措置だと説明した。この措置について、米ホワイトハウスのカロライン・リービット報道官は、キューバに住む1100万人の多くが電力供給の制限下で生活しているという緊急事態に対処するために講じられたものだと強調した。その上で、「制裁方針に正式な変更はない。われわれはキューバ国民に人道支援を施すことを目的として、ロシアの船がキューバに到着することを容認した。こうした決定はケース・バイ・ケースで行われている」と説明した。物資の輸送が今後も許可されるかどうかについて問われると、リービット報道官は、キューバの経済的課題は国内の統治体制に起因するものであり、政治的な変化がなければ輸送の封鎖は今後も続くという、政権の基本的な立場を改めて強調した。
一方、ロシア側は今回の輸送について異なる見解を示している。ロシア大統領府(クレムリン)のドミトリー・ペスコフ報道官は、今回の物資の提供は人道支援であると同時にロシアとキューバの長年にわたる関係の継続であると説明。キューバのエネルギー危機が深刻化する中、ロシアは「傍観する」ことはないと強調した。
米国の「人道的例外」とロシアの「戦略的機会」という対照的な捉え方は、現在の状況の核心にある緊張関係を如実に表している。なぜなら、政策自体は変わっていないかもしれないが、その政策が機能する現実の状況は制御しにくくなっているからだ。
米国の場合、問題は圧力をかけることができるかどうかではない。この3カ月間、それは明らかだった。より差し迫った問題は、その圧力が持続可能かどうか、そしてそれが明確な次の段階と結び付いているかどうかだ。それがうまくいったらどうなるのか? 逆にうまくいかなかったらどうなるのか?
さらに言えば、世界のエネルギー市場は米国の外交政策に完全に連動しているわけではない。石油の流れは、より広範な主体や動機、そして同盟関係によって形作られており、その多くは米国の支配の及ばないところで機能している。これはロシアのような国だけでなく、現在の米国の戦略では十分に考慮されていない可能性のある、より広範な課題に対しても新たな機会を生み出すことになる。



