私がコーチングを依頼されたあるリーダーが、自社のデジタルトランスフォーメーション(DX)の状況を説明してくれた。その企業では新たなAIツールが導入され、レガシーシステムは順次退役していた。彼の管轄下にある複数のチームは変化の恩恵を受けるために再編され、コンサルタントの姿は至るところにあった(重要なことが起きている兆し、少なくとも費用がかさんでいる兆しではある)。
書類上は、すべてが前進に見えた。だが、彼の部下の1人と話したとき、こう言われた。「変化に反対しているわけではありません。ただ、新しいシステムを学びながら、顧客を落ち着かせつつ、どうやって実際の仕事を回せばいいのかが分からないんです……それに、社員にとってこれがワクワクするものだと"装う"ことまで求められているのですから」
このきわめて人間的な反応こそ、リーダーが見落としがちなデジタルトランスフォーメーションの一部である。
経営層から見れば、変革は進歩に映る。だが組織の中ほどから見れば、混乱と過負荷に感じられることがある。
マッキンゼーはデジタルトランスフォーメーションを、テクノロジーを大規模に展開することで価値を生み出すための「組織の配線替え(rewiring)」だとしている。配線替えは、ソフトウェアをインストールすることとは同義ではない。配線替えは習慣、ワークフロー、人間関係、意思決定のプロセスを変える。言い換えれば、文化を変えるということだ。少なくとも、そうあるべきだ。
しかし、その文化こそが、変革の取り組みが最も失敗しやすい場所である。
デジタルトランスフォーメーションが長引くにつれ、従業員は口には出さないかもしれない疑問を抱き始める。これは本当に仕事を楽にするのか、それとも新しい形で難しくするだけなのか。これは仕事の改善のためなのか、それとも人員削減のためなのか。私の周りの誰もが疲弊しているのに、なぜ経営陣はこれを進歩だと言い続けるのか。
リーダーが従業員の懸念に正直に向き合わなければ、文化はひび割れ始める。会議ではうなずきながら、新しいプロセスを迂回する方法を探す人が出てくる。マネジャーは導入を支持すると言いつつ、内心ではチームを守ろうとする。デジタルトランスフォーメーションのさなかに文化が崩れるのは、人が弱いからではない。人が人間だからである。
ボストン コンサルティング グループによれば、大規模なテクノロジープログラムの3分の2超は、期限通りでも予算内でもスコープ内でも完了していない。これはプロジェクト管理やITの問題にとどまらない。組織が、システムと人が一度に吸収できる負荷を過大評価しているというサインである。
私は企業で働いていた頃、比較的若い副社長だった時期に、これに似た場面を経験した。年次の戦略セッションの終わりには、巨大なフリップチャートの紙に「最優先事項」が十数個も壁一面に貼られていた。私も同僚も高揚していた。そして公平に言えば、もしそれらをすべて成し遂げられていたなら、我が社は競合を圧倒していただろう。
だが、CFOは年季の入った抜け目のない人物だった。彼は椅子にもたれ、両手を頭の後ろに回しながらこう言った。「どれも価値がある。だが、この会社で20年やってきて分かったことがある。我々にある帯域(bandwidth)は、1つ、多くても2つだ」
彼の意見は退けられ、経営陣はそれらすべてを追うと決めた。
委員会がつくられ、四半期ごとの進捗報告が予定された。1年後、次の戦略会議に集まったとき、CFOが正しかったことが分かった。前年のプロジェクトのうち完了していたのは2つだけだった。ほかはいくつも、リソース待ちで停滞していた。残りは、限られた資金、ITとプログラミング支援の不足、適切な技術スキルを持つ人材の不足、部門間の優先順位の競合、変化疲れ、そしてマネジャーや従業員には実際以上に混乱を受け止める余力があるという誤った思い込みという、組織の現実に突き当たり、立ち消えになっていた。
振り返れば、私たちは文化の限界にぶつかっていたのだと分かる。良いアイデアが組織の実行能力を上回っていたのである。
デジタルトランスフォーメーションに取り組む際に、リーダーが変えるべき4つのポイントを紹介しよう。
1. 変化を具体化する。 チームメンバーが必要としているのは、イノベーションを賛美する高尚なメッセージではない。月曜の朝に自分の仕事が具体的にどう変わるのか、各段階で成功とは何を指すのか、何が後回しにできるのかを知ることだ。何が変わり、何が変わらないのかをリーダーが具体的に伝えるほど、人々は不安で空白を埋めることにエネルギーを浪費しなくなる。
2. 真実を語る。 文化を壊す最短の方法は、困難な移行を簡単だと装うことだ。人は厳しいことにも耐えられる。耐えられないのは粉飾(spin)である。透明性のあるリーダーは、この先の苛立ちや、大きな転換に必ず伴う学習曲線を認めることで信頼を築く。
3. 負担を減らす。 優れたリーダーは、支援なしにチームメンバーに「変革し、成果を出し、顧客を安心させよ」とは求めない。新しいシステムを学ぶのは難しいため、試し、適応するための時間を確保する。そうでなければ「変革」は、すでに持続不可能になりつつある仕事に、さらに何かを上積みするものとして感じられてしまう。
4. 完璧ではなく前進を評価する。 まだ機能していない点ばかりが耳に入ると、チームメンバーは変化を失敗と結びつけるようになる。リーダーは、変化を受け入れようとするチームや個人を認めることで、それを反転できる。とりわけ、周囲を助けながら前に進めている人々には特別な注意を払うべきだ。
適応力のある組織は、デジタルトランスフォーメーションがテクノロジーの物語というより文化の物語であることに気づき始めている。成功する企業は確かに最良のツールを持つ。だがそれ以上に重要なのは、人々が、自分たちは変化を「引きずられて」いるのではなく「導かれて」いるのだと信じられることである。



