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2026.04.23 16:30

ビジョンも報酬も社員が決める。澤村・側島製罐が示す、愛される企業の共通点

澤村幸一郎|澤村代表取締役

なぜ今、日本に「LOVED COMPANY」が必要なのか

社員一人ひとりの多様な「幸せ」と誠実に向き合うこと。それこそが、中長期的な企業の付加価値向上とその先の成長につながる。

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ここ数年、日本の中小企業を取り巻く環境は大きく変わった。物価基調は持続的に上向いており、デフレを脱して新しい経済ステージへと確実に転換しつつある。また、かつては将来の懸念として語られていた生産年齢人口の減少が急速に進み、企業の現場では今まさに「人が足りない、採れない」という切迫感が生じている。こうした環境下で、中小企業は、限られた人員で成長するための経営転換が求められている。

しかし私は、これまでの中小企業との出合いを通じて、「成長のあり方」に違和感をもっていた。

事業の拡大と引き換えに、人が摩耗し、組織が痩せていく──。

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そんな光景を少なからず目にしてきたからだ。この問いに対して、ひとつの答えを与えてくれたのが、私が2025年5月より担当している「BE THE LOVED COMPANY PROJECT」だった。

このプロジェクトは、Forbes JAPANとオカムラが発行するビジネス誌『WORK MILL』で提唱された「LOVED COMPANY」の概念を起点に、近畿経済産業局が2022年度から進めているものだ。人を価値創出の源泉ととらえ、社員の幸せを中心に据えた経営を実践する企業(私たちはそれを「愛される企業=いい企業」と呼んでいる)について、4年にわたって調査と対話を重ねてきた。70社を超える経営者や社員の方々と対話を続けるなかで、意外なほど共通する“価値観”が浮かび上がってきた。

「社員の幸せを守り続けるために、会社が成長しなければならない」「成長はゴールではなく、社員の人生に責任をもち続けるための手段だ」。驚くべきことに、「いい企業」は皆、企業の成長のために社員を大切にしているのではなく、社員の幸せのために企業成長が必要だと考えていたのだ。

こうした企業の経営者は、社員一人ひとりの多様な「幸せ」と誠実に向き合う。そして、組織は社員同士の関係性を丁寧に育み、社員が自分で考え、動ける余白をつくっている。この積み重ねが、社員の自律性や利他性を育み、創造性や情熱を引き出し、結果として中長期的には企業の付加価値向上に寄与し、成長していく。

社員の幸せを起点に企業の成長へ──。

この流れは決して理想像ではなく、「いい企業」の現場が実際に歩んできたリアルなプロセスだった。社員の幸せ起点での企業成長の実例紹介は、LOVED COMPANY賞受賞企業2社(澤村、側島製罐)のインタビュー記事にゆずる。もちろん、これは“甘い”だけの組織運営を意味しているわけではない。むしろ、物価高や賃上げが常態化し、人が増えないこのシビアな時代において、“人の幸せを中心に据える”という費用対効果が分かりづらい領域への投資は、コストカットの対象となることが多い。しかし、私たちが見てきた「いい企業」は、人の幸せに資する時間軸の長い中長期の経営判断を惜しまない。

例えば、木村石鹸工業(スモール・ジャイアンツアワード2019ローカルヒーロー賞受賞企業)では、「広告宣伝費」「教育研修費」「コンサルティング費用」を「未来費用」として再定義し、これらの費用の減少が生じた際には「自社の未来に対する投資ができていない」ととらえるようにしている。この考え方が、経営陣の未来への投資を続ける意思を育て、持続的な成長の土台になっているのだ。

目先の利益に流されず、時に厳しさをもってでも、人の幸せを軸に据え続ける。その覚悟こそが「すえながく続く愛される企業」をつくる。調査を通じて、そう確信している。人の幸せを経営の中心に据えて成長することは、理想論ではない。それは、中小企業が日本でこれからの時代を生き抜くために最も重要なあり方なのかもしれない。


田中駿来◎2019年4月に経済産業省近畿経済産業局に入局し、25年5月より現職。関西を中心とした中小企業に関する政策の調査や分析業務を担当している。

文=中居広起 写真=Keisuke Nishijima

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