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2026.04.23 16:30

ビジョンも報酬も社員が決める。澤村・側島製罐が示す、愛される企業の共通点

澤村幸一郎|澤村代表取締役

会社は社員の人生を預かる器

愛知県西部、「名古屋のベッドタウン」と呼ばれる大治町に、今年創業120周年を迎える老舗缶メーカーがある。明治39年から続く側島製罐の製品は、旧日本陸軍の乾パン容器や養蚕の孵化装置などに使うブリキ缶に始まり、戦後、バブル経済期にはお中元・お歳暮の缶容器、そして現代では、薬品やお菓子の容器にもその用途を広げている。

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6代目の石川貴也は、一風変わった制度を取り入れている。社員が自らの役割と給与を決める「自己申告型報酬制度」だ。社員一人ひとりが自らの意志で考えて実行しようとする「未来」に「投資」するという考え方で、社員と会社双方の成長につながっているという。

この制度では、申告内容をもとに「投資委員会」というサポートチームが社員とすり合わせの機会を設け、給与が決まる。「役割に対して申告した給与が低すぎれば『上げてもいいのでは』と言うし、逆に高すぎれば『もっとこうすればその給与に見合ってくるよ』とアドバイスします。ただ最終的に意思決定するのは本人です」と石川は説明する。投資委員会のメンバーは輪番制で、役員でも人事担当でもない。

この制度を導入した理由には、側島製罐が掲げるミッション・ビジョン・バリュー(MVV)がある。日本政策金融公庫を経て、後継ぎとして代表取締役に就任した石川は、側島製罐が経営理念を掲げていないことを初めて知った。「前職では明確な経営理念があったので、『うちは100年以上、理念なしでやってきたのか......』と、言葉を失いました。それから1年弱かけて、社員みんなでMVVをつくったのです」

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ただ、石川には懸念していることがあった。「MVVに沿って社員を評価することになると、今度はMVVに沿ったことだけをやるという思考停止に陥ってしまう。それでは本末転倒だ」。石川は悩んだ結果、評価と管理をやめることにした。指示命令、決裁、役職などの仕組みもなくした。石川自身の社長という役職も廃止した。では給与はどうやって決めるのか?そこで、取り入れたのが自己申告型報酬制度だった。

「宝物を託される人になろう」というのが、側島製罐が掲げるビジョンだ。「大事な商品を預けていただけるのが缶の役割です。それに値する会社にしていかなきゃいけないし、そのために胸を張ってやれる仕事だったら、自由に何でもやっていいというのが唯一のルールになりました」

実際、製缶工場の機械音や金属音を生かした音楽映像作品を、会社の予算で制作する社員が現れるなど、自由な活動が生まれている。驚くべきは、こうした自由な社風が会社の業績も向上させているという事実だ。売上高は直近5年で1.5倍以上に拡大し、5期連続黒字を達成している。そして、石川の経営哲学の根底にあるのも、やはり社員への愛情だ。

「うちで働いてくれている社員には、豊かな人生であってほしい。缶ってそもそも、大事なものを入れる器なわけじゃないですか。それをつくっている会社こそ、大事な人生を預かる器でなければいけないなと思っています」


石川貴也◎側島製罐代表取締役。金融機関、省庁で約10年勤務した後、2020年に家業である側島製罐へ入社。23年より現職。「世界にcanを」「宝物を託される人になろう」というミッション・ビジョンを掲げ、社員が給与を自分で決める「自己申告型報酬制度」を導入するなど、新しい時代の組織づくりに挑戦している。

選考プロセス

アドバイザリーボードによる推薦▶︎審査会で受賞企業を決定▶︎スモール・ジャイアンツアワードにて発表

審査基準
▶︎社員への機会の提供
▶︎働きがい
▶︎自律型人材の育成
▶︎心理的安全性

審査員

阿瀬太|経済産業省近畿経済産業局中小企業政策調査課課長
木村祥一郎|木村石鹸工業代表取締役社長
山中哲男|トイトマ代表取締役社長
藤吉雅春|Forbes JAPAN編集長

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文=中居広起 写真=Keisuke Nishijima

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