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2026.04.23 16:30

ビジョンも報酬も社員が決める。澤村・側島製罐が示す、愛される企業の共通点

澤村幸一郎|澤村代表取締役

澤村幸一郎|澤村代表取締役

社員の幸せを中心に据える経営こそ、持続的な成長を可能にする。「LOVED COMPANY」へのインタビューから見えてきた、数字やビジネスモデルだけでは計れない「いい会社」の条件とは。

スモール・ジャイアンツアワードはこれまで、「グローバル市場の開拓」「地域への貢献」「稼ぎ続ける力」という企業の対外的なインパクトを評価してきた。一方で近年、企業を内側から支えるインナーブランディングの力に注目が集まっている。人的資本の土台がしっかりしている企業こそ、持続的な成長が可能なのではないか-。Forbes JAPANはこの仮説を検証するチャレンジとして、「中小企業だからこそできる人的資本経営」の好事例を表彰する「LOVED COMPANY賞」を、スモール・ジャイアンツアワードの部門賞として創設した。初の受賞企業となった2社を紹介する。


琵琶湖西岸のほとり、山と湖に挟まれた人口わずか3000人ほどの地域に、就活生からのエントリーが600人(2027年卒新卒採用)を超える人気企業がある。民間企業のオフィスから注文住宅まで、設計・施工を一貫して担う総合建築業の澤村(以下、SAWAMURA)だ。最寄りのJR湖西線の駅から本社までは徒歩約10分、ほとんど誰ともすれ違わないくらいの人口密度だが、同社が毎年開催している「SAWAMURAマルシェ」の日だけは、一日で2000人近い人が訪れ、通りは大混雑する。なぜこれほど愛されるのか。一体、SAWAMURAとはどんな会社なのか。

3代目社長の澤村幸一郎が、亡き父の後を継いだのは2007年。25歳のころだった。当時のSAWAMURAは設計ではなく施工を請け負う建設会社で、売り上げの7-8割は公共事業。ところが社長就任の翌年にリーマン・ショックが起き、さらに日本が「コンクリートから人へ」とかじを切ったことで公共工事は激減した。はってでも仕事を取りに行かなければいけない時代。澤村が、設計士だった創業者の祖父のマインドを引き継いで「これからは民間の仕事を設計・施工で受注していきたい」と提案すると、みんな納得してくれた。

現在では売り上げの半分をオフィス・工場のBtoB、もう半分を新築住宅・不動産・リフォームのBtoCが占める。「このふたつの事業はマーケティングの仕方が違うのにもかかわらず、我々は同じ規模で成長できている。これがSAWAMURAの真骨頂です」と澤村は語る。これには理由がある。会社の業績が安定し始めたころ、澤村は「世の中に『SAWAMURAらしさ』をどうやって提案していこうか」と考えるようになっていた。そこで、18年に本社オフィスを増改築したことを機に、会社のリブランディングを始めたのだ。

まずは、旧社屋のときにふたつの建物に分かれていたBtoBとBtoCの部署を、ワンフロアに統合した。すると、これまで物理的にも心理的にも壁のあった部署間に交流が生まれた。「簡単に言えば、ふたつの部署の社員同士が仲良くなったんです。その流れで、受注したオフィスのコーディネートに住宅のコーディネーターが入って他社とは違う雰囲気づくりにつながるなど部門をまたいだ提案ができるようになりました。事業としても相乗効果が生まれ始めたんです」。

社員同士の「つながり」がいちばん大事だと気づいた澤村は、社長が来期の方針を発表するだけだった社員総会を刷新した。22年、社員全員がSAWAMURAらしさを対話しながら考えてプレゼンする「全社員ワークショップ」を始めた。この時、あるグループが発表した「五目炒飯」というキーワードに澤村は手応えを感じた。「五目炒飯のようにみんなが混ざり合ったときに最大の力が出せるのが、『SAWAMURAらしさ』なんだという話に、社員全員が共感した。その翌日からみんなが自社の強みを自覚して行動が変わっていくのがわかりました」。

冒頭の「SAWAMURAマルシェ」も、最初はリブランディングの一環で会社敷地内で始めたものだ。だが今では、地域で使われてない空き家を活用したフォトギャラリーやワークショップが開かれるなど、社員と住民と来場客が五目炒飯のように混ざり合う、街づくりの一大イベントとなっている。

「マルシェの費用は会社のもち出しで収益はほとんどありません。それでもなんで続けているのかというと、『街づくり』が企業としての個性になってきているのです。狙ったわけではないのですが、興味をもった学生が集まってくれてリクルートにもつながっています」

澤村に人とのつながりの大切さを教えてくれたのは、60歳で亡くなった先代の父だ。肺がんだった父は亡くなるまでの1年間、酸素ボンベを引きながら自分の懇意にしていた人々のもとに息子を連れ回して紹介した。「つながなあかんと思ったんでしょうね」。その愛情が今は社員へ、そして地域へと波及している。


澤村幸一郎◎澤村代表取締役。1982年、滋賀県高島市に生まれる。2007年、先代の早逝に伴い25歳で事業承継。リーマン・ショック直後の不況のなか、公共工事依存から脱却。民間設計・施工に強みをもつ建設業というスタイルを確立する。19年から企業ブランディングに取り組み、5年で2倍の従業員180人、売上高68億円規模の企業へと成長させた。

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文=中居広起 写真=Keisuke Nishijima

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