資産約17.5兆円のビリオネア、富にも権力にも執着しないと強調
ジャオは本書の中で、成功しても価値観が揺らがなかった人物として自らを描いており、その人物像は輝かしく、読者を鼓舞するものとして提示されている。フォーブスが約1100億ドル(約17.5兆円)と見積もる彼の資産は、ビル・ゲイツを上回る水準だ。しかしジャオは、もともと富が目的ではなかったと強調し、「私は金に執着していない。権力にも関心はない。名声にも興味はない。自分が後世にどう記憶されるかさえ気にしていない」と書いている。自らの無私無欲さを示す例として、ジャオは非営利の教育プラットフォーム「Giggle Academy」などの慈善活動を挙げている。
本書には、バイナンスの共同創業者であり、彼との間に3人の子どもを持つイー・ハーが序文を寄せている。彼女によれば、バイナンスが世界的な巨大企業になった後も、ジャオはアマゾンで買った服を着て、自転車でミーティングに向かい、古いトヨタのミニバンを運転していたという。
各国の政治指導者や王族との交流を通じ、権力の中枢と結びつく
だがこの本は同時に、ジャオが世界の権力中枢に連なる人物であることも強く印象づけようとしている。本書でジャオは、世界各地を飛び回り、各国の政治指導者や王族の歓迎を受けたと記している。その顔ぶれは、サウジアラビアの事実上の最高指導者であるムハンマド・ビン・サルマン皇太子から、レイ・ダリオやラリー・フィンクと並んで本書に賛辞を寄せたブータン国王にまで及ぶ。
その後に続く逸話も、同じ役割を果たしている。バイナンスは2022年、Xに5億ドル(約795億円)を出資したが、ジャオはそれを「勘で決めたような金額だった」と表現している。その判断は、十分な財務分析をしないまま、イーロン・マスクと短く話しただけで下されたという。ジャオによれば、その後の企業再編の結果、バイナンスはSpaceXの小さな持ち分も手にした。彼は、SpaceXが近く新規株式公開を行い、評価額は最大2兆ドル(約318兆円)に達する見通しだとも記している。また、バーレーン中央銀行の総裁が、自国でChatGPTが使えないと不満を漏らした際には、ジャオ自身がサム・アルトマンに連絡を取り、翌日にはその問題を解決したとも記している。
成功の証明にも恨みの対象にもなっていたフォーブス
ジャオは、この回顧録の中で何度もフォーブスについて触れている。彼にとってフォーブスは、自身の成功を世に示す舞台として登場することもあれば、恨みの対象として語られることもある。ジャオは、2017年に香港で行われたフォーブスの写真撮影を振り返っている。バイナンスのパーカーを着たまま表紙を飾ったそのとき、彼は友人に向かって「これは、僕が金持ちになったということか?」と尋ねたという。彼は、2022年にフォーブスへの2億ドル(約318兆円)の出資を検討したものの、その話は実現しなかったとも書いている。
そして、2020年にフォーブスが掲載した、バイナンスの「太極文書(Tai Chi)」と呼ばれる内部文書に関する記事にも触れている。この記事は、バイナンスが米規制当局の規制を回避しようとした疑いを報じたものだった。ジャオはこの報道を、自分を追い詰めていった包囲網の一部として描き、検察当局が記者に情報を流し、その後、この記事が調査開始のきっかけとして使われた可能性まで示唆している。バイナンスはこの記事をめぐってフォーブスを名誉毀損で訴えたが、3カ月後に訴訟を取り下げた。
SEC委員長との親交やFTXとの関係など業界の暗部が明かされる
また、この本が最も興味深いのは、重要な細部がさりげなく出てくる点だ。ジャオは、ゲーリー・ゲンスラーが米証券取引委員会(SEC)の委員長に就任する前、ジャオ自身と友好的な関係にあったと記している。
彼はまた、ライバルの暗号資産取引所FTXとの複雑な関係についても振り返っている。バイナンスは一時、FTXの約20%の持ち分を保有し、当時の価値で約5億8000万ドル(約922億円)相当のFTTトークンも保有していた。2022年後半にFTXが経営危機に近づく中、ジャオによれば、サム・バンクマン=フリードは数十億ドル(約数千億円)の資金援助を求めて電話をかけてきたが、その口ぶりは「ボローニャサンドを頼むみたいに、あまりにもあっさりしていた」という。バイナンスが一時はFTX買収に関心を示した後にその交渉から手を引いたことで、FTXの破綻への流れが早まったと見る向きもある。
ジャオは、バリー・シルバート率いるデジタル・カレンシー・グループがFTX崩壊後の混乱で苦境に陥ったあと、CoinDeskの買収について自身に打診があったと記している。皮肉なのは、アラメダ・リサーチのバランスシートに関するCoinDeskの報道が、まさにそのFTX崩壊の引き金の1つになっていたことだ。


