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2026.04.16 16:00

「時給8万円超」の法律事務所か、AIエージェントか──法務業界を揺さぶる米Crosbyが95億円調達

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約173.8兆円規模の法務サービス市場に、AI法律事務所の新興勢力が相次いで参入

定型的な作業の比重が大きく、海外に外注される場合も多い契約書レビューは、もともと自動化に向いた業務と言える。ダニエルズはCrosbyを立ち上げる数カ月前、インドの法務プロセス・アウトソーシング企業を視察し、より速く、より安い法務サービスに対する強い需要を目の当たりにした。市場調査会社Mordor Intelligenceによると、世界の法務サービス市場は2026年に約1兆1000億ドル(約173.8兆円)に達する見通しだ。今回の資金調達ラウンドを共同主導したラックスキャピタルのパートナー、ブランドン・リーブスは、「法務人件費という大きな支出領域を狙う発想は、正しいと思う」と語っている。

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この巨大市場には、他の新興企業もすでに参入している。英国のAI法律事務所Lawhiveは2月、米国展開を進めるために6000万ドル(約95億円)を調達した。サンフランシスコ拠点のIvoも1月、契約書レビュー向けのAIツールをウーバーやショッピファイなどの企業の社内法務チームに販売するため、5500万ドル(約87億円)を調達した。

法的責任を負う正規の法律事務所として、Anthropicや法務AI新興との差別化を図る

Crosbyにとって最大の脅威となり得るのは、Claude Cowork向けに契約書レビューにも対応できる法務プラグインを立ち上げたAnthropicかもしれない。もっとも、Crosbyはこうした企業とは異なり、契約書ごとに法的責任を負う立場にある正規の法律事務所だ。Crosbyを自らの責任で運営するダニエルズは、こうしたリスクを最先端AIラボが引き受けることはないと見ている。

Crosbyはまた、Harvey AIやLegoraのような法務AI新興企業とも異なる。Harvey AIやLegoraがソフトウエアを販売している先は、時間課金を前提とする従来型の法律事務所だ。こうした事務所には、作業時間を圧縮する強い動機がそもそもない。「法律事務所が最も重視する指標は、パートナー1人当たりの利益だ」とダニエルズは言う。

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Law.comによると、米国の大手法律事務所上位100社は2024年に690億ドル(約10.9兆円)の純利益を計上した。その資金は研究開発に再投資されるのではなく、パートナーに分配される。ダニエルズによれば、法務業界はこれまで「人的資本のビジネス」であり、優秀なパートナーを引きつけ、育成し、引き留めることがすべてだったという。だが今では、反復的な業務の多くをAIが担えるようになっている。

ハーバード・ロースクールの研究員、大手法律事務所のビジネスモデルへの影響は限定的と見る

ハーバード・ロースクール上級研究員のロバート・J・クチュールによると、大手法律事務所は、AIツールが顧客獲得の競争力につながると捉え、積極的に投資を進めている。これにより、法科大学院を出たばかりの若手アソシエイトは、単調な作業を以前ほど担わなくて済むようになるだろうが、それでも法務は今後も「人間が中心の職業」であり続けると彼は見る。

「依頼者の立場からすれば、その法律事務所が自分たちの仕事すべてに責任を持っていると確信できなければならない。私はコンピューター任せにはしたくない。現在のAIがどれほど賢く、どれほど優れていて、これからさらに進化するとしても、最後に頼りたいのは、自分が知っていて、信頼し、安心して任せられる人間だ」とクチュールは語った。

クチュールは、少なくとも高度な法務業務を手がける大手法律事務所では、時間課金の仕組みがすぐになくなることはないと見ている。「人工知能は弁護士の実務を大きく変えるだろう。だが、大手法律事務所のビジネスモデルに大きな影響を与えるとは思わない」と彼は語る。

AIエージェントが進化し、当事者の代わりに自律的に交渉するという構想

CrosbyのAIエージェントの性能が高まれば、将来的には「複数当事者による自律交渉」の段階に進む可能性もある。これはラックスキャピタルのパートナーでCrosbyの投資家でもあるグレース・イスフォードが用いる表現だ。顧客ごとに専用AIエージェント群が付き、当事者の代わりに交渉を重ね合意に達すると見ている。もっとも、少なくとも現時点では、最終的な責任を負うのは依然として人間だ。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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