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2026.04.16 16:00

「時給8万円超」の法律事務所か、AIエージェントか──法務業界を揺さぶる米Crosbyが95億円調達

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差別化要因はスピード、8つのAIエージェントが数時間で契約書の審査を完了

しかし、Crosbyの本当の差別化要因は、料金の安さでもAIの活用でもない。最大の強みは、スピードにある。

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Crosbyは主に、社内に弁護士がまったくいない新興企業や、法務責任者が1人しかいない企業を顧客としている。そうした顧客は、昼夜を問わず、Slackやメールで契約書をCrosbyに送ることができる。送られてきた契約書は、自動的に「Bailiff」と呼ばれる中央システムに取り込まれる。このシステムには、契約書のひな型や社内ポリシー、基本的なガイドライン、各種ルールといった関連文書も保存されている。

その後、OpenAI、Anthropic、Gemini(グーグル)のモデルを基盤に構築された8つのAIエージェントが、契約書のレビューに取りかかる。各エージェントは交渉プロセスの異なる部分を担っており、過去の契約書から関連情報を引き出したり、特定の語句の修正案を示したり、修正内容を説明するコメントを生成したりする。AIシステムが文書全体を一通り精査すると、その内容にどの程度自信があるかを示すスコアを付けたうえで、人間の弁護士に引き渡す。弁護士は、必要な箇所に手を入れて仕上げる。こうした一連の作業は、数時間で完了する。

このプロセスには、継続的に精度を高めるためのフィードバックループも組み込まれている。AIエージェントは、匿名化された数千件分の契約書レビューと、社内弁護士が手作業でラベル付けした5万件の条項データをもとに学習している。ダニエルズによると、エージェントは条項や契約書をレビューするたびに、「弁護士としての勘どころ」を磨いていく。その結果、契約当事者同士のやり取りの回数も減らせるという。

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審査時間を約50%削減、顧客のSimileは売上高を28倍に伸ばす

猛烈なスピードで事業拡大を進めるAI新興企業にとって、Crosbyはうってつけの存在だ。AIコーディングツール「Cursor」のAnysphereは、これまで2000件の契約書レビューでCrosbyを利用し、審査にかかる時間を約50%削減した。2025年夏、インデックス・ベンチャーズ主催のCEOリトリートで、ダニエルズは3社のAI新興企業を新規顧客として獲得した。音声AI企業Cartesia AI 、パラグ・アグラワル(元ツイッターCEO)が立ち上げたAI検索インフラ企業Parallel Web Systemsもその中に含まれる。

「当社の顧客の多くは、法務部門を持たない小規模な新興企業だ。そうした企業は、自力でグーグルやChatGPTを使って対応するか、1時間当たり500〜1000ドル(約8万〜約16万円)を請求する高額な法律事務所に頼るかのどちらかになる。そして交渉が終わるころには、その案件で得られる利益は、すでに法務費用に食い尽くされていることが多い」とワイザーは語る。

市場調査向けの人間のデジタルシミュレーションを開発するAI新興企業のSimile AIも、データ提供元やモデル提供元との契約、さらにエンタープライズ顧客との契約をレビューするためにCrosbyを活用している。同社で市場進出戦略を率いるレイニー・ヤレンによると、Simile AIはこの6カ月で売上高を28倍に伸ばしており、その成長についていける法務チームが必要だったという。「Crosbyは、我々がこれまで試してきたどの手段よりも圧倒的に対応が速く、当社の事業スピードに最も合っている」と彼女は語る。

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翻訳=上田裕資

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