一方、同首相の有力な対抗馬である野党党首のマジャル・ペーテルは、異なる政治姿勢を掲げているが、完全に戦略的な方向転換をしようとしているわけではない。マジャル党首は外交政策ではなく、汚職撲滅と国内改革を柱として選挙運動を展開している。先述のドゥボビク所長は、マジャル党首は「EUやウクライナの操り人形ではない」が、同党首が当選すれば、ハンガリーとウクライナの関係にとって「転換点」であり「好機」となるだろうとの見解を示した。
ハンガリーで政権が交代したからといって、同国が自動的にウクライナの主要な支援国になるわけではない。だが、これによりEUの意思決定プロセスの恒常的な摩擦要因が解消され、西側諸国の機関内部の対立を望むロシアの余地が狭まる可能性がある。
だが、ハンガリーの選挙制度は予測を困難にしている。同国の選挙制度は歴史的に与党に有利に働いてきた。オルバン首相率いる右派与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」は2022年の議会選挙で、得票数は比較的僅差だったものの、議会では多数の議席を確保することができた。つまり、接戦になったとしても、結局はオルバン政権が再び誕生する可能性があるということだ。
筆者の取材に応じた米ヘルシンキ委員会のエリカ・シュラガー元委員は次のように指摘した。「ハンガリーの選挙制度は信じられないほどゆがんでおり、偏りがあるため、フィデスが得票率で少数派にとどまっても、依然として政権を樹立できるという結果になりかねない」。シュラガー元委員は、投票率やハンガリーの選挙制度における死票の配分など、複数の要因が結果に影響を及ぼし得ると説明した。
同委員は、マジャル党首が有力な対抗馬として台頭してきた一方で、同党首の統治手法については未知数だとの見方を示した。「マジャル党首は優れた選挙運動家であることを証明してきたが、だからといって同党首が優れた統治者になれるとは限らない。同党首の政策がどのようなものになるのか、また、もしその意向があるとしても、どの程度まで『再民主化』を進めたいと考えているのかは分からない」
オルバン首相が政権を維持すれば、ウクライナを巡る意思決定を阻止したり遅らせたりしようとするハンガリーに、EUは今後も対応していくことになるだろう。しかし、もし同首相が敗北すれば、EU内の最も根強い内部制約の1つが緩み始めるかもしれない。いずれの結果になっても、ハンガリーの議会選挙の影響は同国の国境をはるかに超えて広がるだろう。


