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2026.04.11 22:07

AI研修に巨額を投じる企業が見落としている「順番」

stock.adobe.com

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工業用配管の建設に携わる機械エンジニアのCory LaChanceは、生涯でコードを1行も書いたことがなかった。だが8週間で、Claude Codeを使って、業界の産業請負業者がいまや日々使っている本格的なソフトウェアアプリケーションを構築した。そのアプリは、配管のアイソメ図を読み取り、溶接箇所数、材料仕様、コモディティコードを自動的に抽出する。以前は図面1枚あたり10分かかっていた作業が、いまは1分で済む。

必要だったのは研修プログラムでも、企業のカリキュラムでも、認定モジュールでもない。好奇心とツールだった。

今日のリーダーにとって重要な問いは、どれほど多くの研修メニューを提供しているかではない。その研修費が、実際に従業員の行動をどれだけ変えているかである。

巨額予算、乏しいリターン

企業向けの学習・人材開発市場は、世界全体で3500億ドルを超える。2025年、企業は従業員研修に1028億ドルを投じ、2024年から約5%増加した。さらに、企業の4分の1が、今年はAI研修により多くの資金とリソースを投入すると答えている。

ベンダー各社は企業の不安に素早く対応し、AI研修の製品・サービスの立ち上げは昨年29%増となった。大規模言語モデル(LLM)リテラシー講座、コパイロットの導入、エンタープライズAIアカデミーが、全社員を「AI流暢」にすると約束している。

新たなスキルへの強い圧力も増す一方だ。企業向け学習のアドバイザーであるJosh Bersinは最近の調査で、研修予算が膨張しているにもかかわらず、企業の74%が組織内の新スキル需要に追いつけないと回答したことを示している。

しかし、Bain & Companyの調査では、生成AIの取り組みを意味のある形でスケールできている組織は20%未満にとどまる。

問題は明らかに意欲ではない。順序なのだ。これが、多くのAI研修が日々の業務から切り離されて感じられる理由である。多くの企業は、研修の拠り所となる具体例が十分にない段階で、広範なAI研修に投資している。その結果は、汎用的なモジュールの受講完了であって、行動変容ではない。

実際に状況を動かす2つの要素

数十の組織でAI導入の進展を見てきた結果、AIツールを実際に活用できるかどうかを分ける要因は2つあると気づいた。そのどちらも研修ではない。

1つ目は、私が「いじくり屋(tinkerers)」と呼ぶ人々だ。Cory LaChanceのような社員は、許可やカリキュラムを待たない。内発的な動機で試行錯誤する。週末に新しいツールを手に取り、月曜までに何かを動かしてしまう。どれほど研修を積んでも、その本能を植え付けることはできない。どの組織にもいじくり屋はいる(多い組織も少ない組織もある)が、環境が彼らを解放するか、抑え込むかを決める。

2つ目の要因は心理的安全性、すなわち、社員が職業上の不利益を恐れずに新しいことを試せると信じているかどうかである。失敗にリスクが伴うなら、社員は実験しない。モジュールを受講して「チェックを入れ」、これまで通りのやり方に戻るだけだ。

組織がいじくり屋を特定できない、あるいは、文化が評価しないために彼らがひそかに実験しているのであれば、問題は研修不足ではない可能性が高い。リーダーシップと文化の問題だ。

多くの企業が投資しているのは先行要因、すなわち研修、ツール、アクセスだ。だが私の経験では、強化要因、つまり誰かが新しいことを試した「後に何が起きるか」の方がはるかに重要である。内発的動機の次に強力な強化要因は、上司や同僚がその試行錯誤に気づき、称えることだ。

すべては順番で決まる

誤解のないように言えば、広範なAI研修は価値を持ち得る。経営陣が主導し、AIを中心に据えて中核プロセスを全面的に再設計するトップダウンのAI変革は、全社的なROIを実現する最大の推進力であり続ける。そこには能力構築が必要で、研修もその一部である。

しかし、社内事例がないうちに研修を展開すると、広範なAI研修のROIは振るわない。いったん実証となるポイントが生まれれば、ROIは急速に高まる。

言い換えれば、適切な手順が重要だ。こうである。まず、いじくり屋を見つけ、彼らの進路から摩擦を取り除く。守りと可視性を与える。彼らの発見を、注釈ではなく主役として称える。同時に、経営陣はAIがビジネスモデルをどう作り変えるかを定義する、1つか2つの変革的ユースケースを後押しすべきだ。これらの取り組みが合わさることで、社員が具体的にイメージし、目標とできる実在の社内事例が生まれる。

その後に初めて研修が報われる。リーダーは、懐疑的な社員が誰もが抱く問い──「これは自分の仕事に何を意味するのか?」──に答えられるようになる。実際の社内事例に基づく研修は、汎用的なAIリテラシー講座の修了証よりも、行動を変える可能性がはるかに高い。

予算を承認する前に問うべき3つの質問

Cory LaChanceに必要だったのは、汎用的な研修プログラムではない。強力なツールと、イノベーションを罰しない環境だった。彼が8週間で構築したものは、いじくり屋がもたらし得る影響の大きさを示している。

AIで最大のROIを得ている企業は、必ずしも最も洗練された研修プログラムを持つ企業ではない。多くの場合、自社のCoryたちを見つけ、誰もが試して失敗できる安全を整え、そのボトムアップの勢いを、焦点を絞ったトップダウンの変革を形づくり、活性化するために生かした企業である。

次のAI研修予算を承認する前に、リーダーは3つの質問を自らに投げかけるとよい。

  • 自社のいじくり屋は誰か。
  • 彼らが存分に走れる余地を与え、その成功を共有してきたか。
  • 研修を具体的かつ関連性あるものにする、1つか2つのユースケースにコミットしているか。

どれか1つでも答えが「いいえ」なら、まずそこに投資すべきである。

forbes.com 原文

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