テクノロジー

2026.04.13 10:30

ソニー、生体情報で「心の動きを可視化」する情動推定技術 コンテンツ制作に大変革をもたらすか

エンターテインメントコンテンツを鑑賞したり、ゲームを遊んでいる時の人間の脳波を測定。感情や心の動きをデータ化して、コンテンツクリエーションの新たなものさしにするための情動推定技術をソニーが開発している

エンターテインメントコンテンツを鑑賞したり、ゲームを遊んでいる時の人間の脳波を測定。感情や心の動きをデータ化して、コンテンツクリエーションの新たなものさしにするための情動推定技術をソニーが開発している

ソニーが掲げる「人に近づく」というビジョンは、今や人とハードウェアの間に横たわる物理的な距離を超えて、人間の内面にも向けられようとしている。

ソニーが2025年の「Sony Technology Exchange Fair(STEF)」で公開した「情動推定技術」は、その象徴的な成果のひとつだ。これまでブラックボックスであった人間の「感情」や「心の動き」を、脳波や脈拍といった生体情報から客観的な数値として導き出すこの技術が、コンテンツクリエーションの領域に変革をもたらそうとしている。その開発を主導するソニーの小森谷陽多氏と、映画業界の識者であるウィリアム・アイアトン氏のインタビューから、情動推定技術の本質に迫る。

情動の評価基準は顔表情から「生体情報」へ

ソニーが情動推定の研究開発に注力する背景には、「人を測り・知り・変える」ことで製品やサービスをより人間に寄り添ったものに進化させようとする明確な目標がある。小森谷氏は、その動機を次のように語る。

「ソニーは『人に近づく』ための技術を研究開発しています。ソニーの製品やサービスが人を正しく理解できるようになるためには、その人の内面で何が起きているかを深く知る必要があります。単にデータを集めるだけでなく、ニューロサイエンス(脳科学)やアフェクティブサイエンス(感情科学)の知見を結びつけ、得られた情報をフィードバックすることで、新たな価値を提供することを目指しています」

ソニー株式会社で情動推定技術の研究開発に携わる、技術開発研究所 インタラクション技術研究開発部門 ヒューマンテクノロジー研究開発部 統括部長の小森谷陽多氏
ソニー株式会社で情動推定技術の研究開発に携わる、技術開発研究所 インタラクション技術研究開発部門 ヒューマンテクノロジー研究開発部 統括部長の小森谷陽多氏

これまでエンターテインメントの評価は、アンケートやインタビューといった主観的で、かつアナログな手法に頼らざるを得なかった。しかし人は誰しもが自分の感情を正確に言語化して伝えられるわけではない。情動推定は私たちの主観の壁を越えて、人間の反応をありのままに捉えるための「ものさし」として開発されている。

情動を捉える手法として古くから用いられてきたのが「顔表情解析」である。笑顔であれば「快」、顔をしかめていれば「不快」といったように、表情と感情を一対一で対応づける「基本情動仮説」に基づくものだ。しかし、この理論の妥当性については、これまで繰り返し議論が重ねられてきた。小森谷氏が次のように説明する。

「表情は人の意志によって制御可能です。つまり『嘘をつく』ことができてしまいます。また、文化や個人による差異が大きく、表情だけで内面を断定すれば実証データとの不整合が生じます。実際に、アマゾンやマイクロソフトといった大手企業も、顔の表情から内面を解析するAPIの提供を中止、あるいはその成果となるデータの信頼性について注意を喚起しています」

次ページ > 没入を妨げない、情動の測定を支えるデバイス設計

編集=安井克至

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事