脳波測定というキャッチーなトピックをフックにファンの関心を引きつけながら、作品への思い入れを一層深める点でも、このプロモーションは効果を発揮したようだ。先端テクノロジーが、ファンと作品をつなぐ新たな架け橋となり得ることを示した好例だと思う。
情動データはクリエイターの「羅針盤」になるか
アイアトン氏は、米ハリウッドおよび日本の映画業界において、数々の名だたる作品の制作に携わってきたエキスパートだ。豊富な経験を持つ同氏の目に、ソニーの情動推定技術はどのように映ったのだろうか。
「映画業界では、伝統的に年齢は35歳以上・以下の女性・男性といった四象限に分類して、視聴者の反響をヒアリングにより調査してきました。しかし、例えば複数人数を集めて行う対面スタイルのアンケートでは、比較的声の大きい(積極的に発言する)人の意見に引きずられたり、様々なバイアスがかかるケースがあります。ソニーによる情動推定技術のように、生体反応に基づいたより正確な評価を導き出すアプローチは、とても有意義であると注目しています」
アイアトン氏は、情動推定技術がコンテンツクリエイターにもたらすインパクトについても次のように展望を語った。
「監督、エディター(フィルム編集者)に修正を求める際、人間の情動を生理心理学的な観点から数値化したデータが指標として存在することは、プロデューサーにとっても心強い武器になります。自身の意図が、視聴者に対してどのように伝わっているかを客観的に知りたいと願うクリエイターにとっても、新しいタイプの羅針盤になるでしょう。もちろん、科学的なデータを使うことをすべてのクリエイターに無理強いする必要はまったくないと考えています」
科学に基づいた客観的なデータは、時として残酷な事実を突きつけるかもしれない。しかし、それは上手に活用することによって、表現の自由を縛ることなく、むしろクリエイターがより研ぎ澄まされた表現に到達するための強力な武器にもなると筆者は考える。
言語や文化の壁を越え、人間の根源的な反応にフォーカスするこの技術は、グローバル市場に向けたコンテンツ制作においても不可欠なツールとして注目される可能性がある。
連載:デジタル・トレンド・ハンズオン
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