ソニーの研究開発は「心理学的構成主義」と呼ばれる最新の情動理論に基づいている。感情は脳と身体が相互に影響し合いながら作り出す連続的な状態であると定義する。この理論に基づき、情動を「覚醒度(Arousal)」と、感情の方向性を2つの軸で捉える「快・不快(Valence)」により導き出す。
特に覚醒度については、脳の状態と深い因果関係があることがわかっており、生体反応を測定することでバイアスのない客観的なデータを得ることが可能になる。
没入を妨げない、情動の測定を支えるデバイス設計
正確なデータを取得するためには、被験者がコンテンツに没入できる環境が不可欠だ。従来の脳波計は、導電性を確保するためのジェルを皮膚に塗る必要があり、装着時の不快感が測定結果に「ノイズ」として混入しがちだった。そこでソニーは、装着感に優れるヘッドバンドタイプのセンサーデバイスを独自に開発した。
「市販のセンサーに最適なものがなかったため、装着性の高い独自のデバイスをプロトタイピングしました。ヘッドバンドスタイルなので、帽子を被るような感覚で装着でき、長時間使用しても痛みや不快感を与えない設計です。頭皮にジェルを塗る必要もありません。コンテンツを純粋に評価するためには、センサーそのものが“意識されない”ことが重要なのです」
アルゴリズムにおいても、独自の工夫が施されている。大量のデータで強引に学習させるのではなく、科学的に立証された特定の脳部位やネットワークの活動を特徴量として抽出している。これにより、少数の被験者データであっても精度の高い解析が可能となった。
ラボで厳密な心理学実験を行い、「集中している時」や「リラックスしている時」など情動ステータスのコアモデルをつくる。これを計測の際に当てはめることで、映画やゲームといった異なるアプリケーションにも汎用的に適応できるロバスト性を確保している。


