2026年2月末、米国とイスラエルがイランに攻撃を開始した。これを受けて、イランはホルムズ海峡の封鎖に踏み切った。この海峡は世界の原油・LNG海上輸送の約2割が通過するエネルギーの大動脈であり、日本にとっては原油輸入量の約9割が依存するルートだ。封鎖によってカタールのLNG生産も停止した。カタールは日本・韓国・台湾への主要LNG供給国であり、LNG輸送に迂回ルートは存在しない。
代替燃料として各国が急速に注目しているのが石炭だ。かつては主要電源だったが、シェールガス革命と再生可能エネルギーの台頭に押され、長年「斜陽産業」と見なされてきた。その石炭を今、アジア各国が争うように買い求めている。
最大の恩恵を受けているのが米国最大級の石炭採掘会社、ピーボディ・エナジーだ。同社はオーストラリアの炭鉱からアジア向けに大量の石炭を供給しており、2017年に日本の民事再生法に相当する連邦破産法11条の適用を経て再建した経緯を持つ。その復活企業が今、地政学的危機を追い風に、かつてない需要の急増に沸いている。
日本などアジア各国から石炭の追加出荷要請が殺到し、豪州炭鉱はすでにフル稼働中
中東情勢を受け、日本・韓国・台湾といった米石炭大手ピーボディ・エナジーの顧客は、天然ガスの代わりに石炭火力発電を増やして電力不足をしのごうと追加の出荷を強く求めている。しかし同社のジム・グレッチ(59)CEOは、「蛇口をひねるように、すぐに増産できるわけではない」と語る。
グレッチは、ホルムズ海峡の封鎖で液化天然ガスの供給不足に陥り、その代替を探しているアジアの発電事業者すべての需要に応えたいと語る。ピーボディは、豪州ニューサウスウェールズの炭鉱をすでにフル稼働中だ。「必要なのは、採掘にあたる人員の増強と設備の追加だ。追加の需要に短期間で応えるのは難しい」と吐露する。
それでも、同社はすでに複数年にわたる拡張計画を進めており、ウィルピンジョン鉱山では、2030年までに年間生産量を1000万トンへと倍増させる計画だ。ピーボディはこのほか、グレンコアとの合弁でワンボ炭鉱でも年間350万トンを生産しており、製鉄用石炭を産出するセンチュリオン炭鉱の増産も進めている(これらオーストラリア産石炭はほぼすべて、日本・インド・フィリピン・韓国・台湾・ベトナムの発電所向けに販売されている)。



