北米

2026.04.12 16:00

ホルムズ海峡の封鎖で「石炭」特需──液化天然ガスの途絶で潤う米最大手ピーボディ

2026年2月11日、ワシントンD.C.のホワイトハウスで開催された石炭利用に関するイベントで、ドナルド・トランプ米大統領にトロフィーを贈呈したピーボディ・エナジーの会長兼CEOジム・グレッチ(写真左)Photo by Anna Moneymaker/Getty Images

ワイオミング州にある米国最大級の炭鉱は輸出ルートがなく、本来の力を発揮できていない

ピーボディの保有資産の中で、本来の力を十分に発揮できていない鉱山の1つが、ワイオミング州パウダーリバー盆地にあるノース・アンテロープ・ロシェル鉱山だ。産出量ベースで米国最大の炭鉱であるこの鉱山は、巨大なバケットクレーンで石炭を、邸宅ほどの大きさのダンプトラックに積み込む露天掘りのストリップマインだ。ピーボディの昨年の同鉱山での生産量は約8000万トンで、10年前の年間1億トンの水準を大きく下回った。だが、戦争に伴う新たな需要が強まれば、状況は変わるかもしれない。

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この鉱山の石炭価格は、新型コロナ禍には1トン11.50ドル(約1829円)だったが、足元では15ドル(約2385円)まで上昇している(この石炭はニューカッスル炭より熱量が低い)。採算性も、1トン当たり1ドル(約160円)未満から2ドル(約318円)へと改善した。

現在のところ、ピーボディがワイオミング州で採掘する石炭には輸出ルートがない。既存の石炭輸出ターミナルからあまりに離れており、採算が合わないためだ。米国の石炭輸出量は年間約4000万トンにとどまり、年間10億トン規模の海上輸送市場ではごくわずかなシェアしか持たない(この市場の半分以上はインドネシアが供給している)。

米国最大の石炭輸出企業はCore Natural Resourcesで、ペンシルベニア州とウェストバージニア州の石炭を、メリーランド州ボルティモアとバージニア州ジェームズリバーから積み出している。故クリス・クラインが創業したForesight Energy(現在は旧親会社Murray Energyの債権者が保有)は、イリノイ州産の石炭をルイジアナ州からミシシッピ川経由で輸出している。どちらの企業も、複数回のコメント要請に応じなかった。

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現在では利益の半分以上をオーストラリア事業から得ているピーボディは、ワイオミング州産の石炭を輸出しようと長年模索してきた。10年以上前には、反石炭派の運動によって、シアトルに5億ドル(約795億円)規模の石炭輸出ターミナルを建設しようとした同社の計画が阻止された。いま同社は、カリフォルニア州オークランドで審査中のターミナル計画で、よりよい結果を期待している(このプロジェクトの開発事業者は、すでに市を相手取った2件の訴訟で勝訴している)。メキシコのグアイマスでは、年間3000万トンを積み出す7億ドル(約1113億円)規模の港湾計画も進んでいる。

グレッチは、輸出を個別ではなく全体として捉える包括的なアプローチをとっている。他社の輸出が増えるほど、国内市場に供給の空白が生まれ、ピーボディにとってはむしろ好都合になるためだ。パウダーリバー盆地の露天掘り炭鉱は、東部の地下炭鉱よりも低コストで生産量を増やしやすく、同社はその分の市場シェアを取り込める可能性がある。グレッチは「他社も蛇口をひねるように増産できるわけではない」としたうえで、「輸出が増えれば、その分を当社の国内生産で埋めることができる。いわばドミノ効果だ」と説明する。電力需要が急増する中で、AI向けデータセンターの新設ラッシュを支える電源として石炭の必要性が高まる可能性があるとし、「あらゆる選択肢が必要になる」と強調する。

トランプ大統領の盟友で石炭政策の助言役でもあるグレッチは、2025年1月に出された国家エネルギー非常事態の宣言を支持している。この大統領令により、政権は議会を経ずに連邦権限を使い、石炭火力発電所の稼働を継続させることが可能になった。一方で反発も出ている。3月には、コロラド州の司法長官が、エネルギー省(DOE)によるクレイグ発電所の一部設備の稼働延長措置の差し止めを求めて提訴したほか、環境団体シエラクラブも、インディアナ州での石炭火力の延命措置を阻止する訴訟を起こした。

パウダーリバー盆地において、石炭とともにレアアースを含む地層が見つかる可能性

パウダーリバー盆地にとっての明るい材料は、石炭とともにレアアース(希土類)元素が含まれる地層が見つかる可能性がある点だ。ピーボディはこれまでに800件の鉱石サンプルを採取し、光学機器や電子機器に使われるゲルマニウムやガリウムの有望な埋蔵を確認している。同社は、これら鉱物の抽出・処理方法を確立するため、エネルギー省、国立エネルギー技術研究所、ワイオミング大学と共同で試験を進めている。「これは本当の意味での“ワイルドカード”(予測不能な要素)だ」と語る。

グレッチは、ホルムズ海峡の封鎖が長引くほど、エネルギー政策を担う当局者は、備蓄が容易な緊急時の燃料としての石炭の価値を再認識するようになると指摘する。イラン情勢でも、ウクライナ戦争でも、日本の福島の原発事故でも、世界はエネルギーの需給バランスが崩れるたびに、石炭に回帰してきた。「私が生きてきた中で、石炭を巡って戦争が起きたことは1度もない。石炭が不足するからエネルギー危機になる、という話も聞いたことがない」とグレッチは語った。

forbes.com 原文

翻訳=上田裕資

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