暗号資産

2026.04.10 12:00

イランのホルムズ海峡通行料、ステーブルコインを規制する米GENIUS法の死角を突く

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米GENIUS法が意図したドルのデジタル覇権強化の手段が、制裁を迂回するために使われる

2025年7月18日に成立した米GENIUS法は、ドルの優位性をデジタル資産エコシステムへ拡張することを目的の一部として設計された。同法は、認可された決済用ステーブルコインの発行体を銀行秘密法(Bank Secrecy Act)上の金融機関に分類する。発行体には、実効性ある制裁措置遵守プログラムの維持、OFACの特別指定国民(SDN)リストに照らした取引検証、そして不許可取引を遮断・凍結・拒否するための方針実装を求める。ステーブルコインをコンプライアンスの枠内に取り込めば、ドルのデジタル上の足跡は強まるという理屈だ。

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この論理にはもう1層ある。それは金融面の論理だ。GENIUS法は、ステーブルコイン発行体に対し、流通する各トークンを高品質の準備資産、とりわけ米国債で裏付けることを求める。テザー単独で短期国債を約1220億ドル保有しており、ドイツの国家保有額を上回る。発行される各ステーブルコインは、実質的に米国政府債務の新たな買い手となる。筆者はこの意図的に設計された仕組みを「デジタル・ペトロダラー」と呼んでいる。民間が発行するドル建てトークンが、世界の「ドルの安定性」需要を米国債市場へと再循環させるのだ。

1974年にヘンリー・キッシンジャーが取りまとめた元祖「ペトロダラー」体制は、石油輸出収入をドルに換え、国債へと還流させた。そのドルを運んだ物理的な動脈がホルムズ海峡だった。50年後の現在、イランは同じ海峡で、デジタルのドル価値を徴収している。銀行を介さず、ブロックチェーン上で。それは、制裁措置の執行を何十年にもわたり可能にしてきたコルレス銀行システム(国際送金の仲介網。Correspondent Banking System)を迂回するものだ。

イランは実際の米ドルを受け取れない。制裁措置により、同国はSWIFTとコルレス銀行ネットワークから何年も前に遮断された。だが、米ドル建てステーブルコインは、その前提を重要かつ重大な形で変えた。USDT(テザー発行)とUSDC(サークル発行)は、制裁措置が効力を発揮する銀行チャネルの外側で、イランがドル相当の価値を受け取ることを可能にする。ここで重要な問いが生じる。ドルの「デジタルの影」が、ドルの制度的な力を損なうために使われているのではないかという点だ。

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イランがビットコインを通行料の支払い手段に加え、制裁遵守の及ばない領域に踏み出す

イランが、海峡通行料の受け入れ手段の短いリストにビットコインを含める方向へ転じたことは、注目に値する重大な動きだ。USDTとUSDCには、スマートコントラクトのレベルでブラックリスト機能が組み込まれている。問題のあるアドレスとしてフラグ付けすると、発行体はトークンを凍結でき、完全に流動性を失わせることでができる。

例えば、テザーはこれまで約33億ドルを凍結し、7000超のウォレットをブロックしてきた。テザーとサークルはいずれも最近、イランの取引所Wallexに関連するウォレットをブラックリストに載せた。ビットコインには、こうしたコンプライアンスの遵守手段がまったく存在しない。中央集権的な発行体もなく、凍結機能もなく、コンプライアンスの抜け道もない。それは史上初めて登場した暗号資産の機能であり、欠陥ではない。イランのビットコイン志向は技術的嗜好ではない。協調的かつ遵守的なステーブルコイン発行体の及ぶ範囲の外側へ、意図的に踏み出す動きである。

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