日本語フォントの開発には固有のカルチャライズが必要
このような最新のフォント開発を支えているのは、長年にわたるアドビの技術とデザインの系譜である。アドビと日本語フォントの歴史は、1989年にPostScriptページ記述言語を搭載した初の日本語PostScriptプリンターが世に出たことに遡る。初期のOCF(Original Composite Font)形式は、モリサワの書体を搭載し、何千もの漢字を含む日本語特有の文字集合に対応するための複合フォントであった。
1990年代に入りDTPが普及する中で、アドビはフォント構造を簡素化したCIDフォント形式を開発し仕様を公開した。さらには出版業界が必要とする異体字や記号を網羅した「Adobe-Japan1」文字コレクションを策定することで、フォント間の互換性と信頼性を飛躍的に高めた。1992年には小塚昌彦氏を擁するチームを東京に設立し、1997年に「小塚明朝」、2001年に「小塚ゴシック」という初のアドビオリジナル日本語書体をリリースしている。
その後も技術とデザインの融合は進み、2000年にはマイクロソフトと共同でOpenTypeフォントの仕様を策定し、プレーンテキスト上で異体字を指定できるIVSやSVSといった国際標準にも対応してきた。2001年に登場した「InDesign」日本語版の合成フォント機能を活かすため、西塚涼子氏のデザインによる仮名フォント「りょう」ファミリー(2003年)が生まれ、のちには藤原定家の書風を再現したプロポーショナル書体「かづらき」も開発された。
インターネット時代にはGoogleと共同で、日中韓の文字デザインの一貫性を維持するPan-CJKフォント「源ノ角ゴシック」(2014年)と「源ノ明朝」(2017年)をオープンソースでリリースし、多言語組版の課題を解決した。近年では、カラー絵文字を搭載した「貂明朝」や、ファイルサイズが肥大化しやすい日本語フォントの課題を解決するバリアブルフォント「百千鳥」など、時代に合わせて変化を続けている。これらの系譜は、小塚氏、西塚氏、そして吉田氏へと受け継がれている。
Adobe Type CJKタイプチームマネージャーの大日方玲子氏は「日本語のフォント開発には機械的な作業ではなく、日本固有のカルチャライズが必要。フォントは情報伝達の手段として人を支える存在でありながら、同時にワクワクさせるものでもある。時代に合った新しいデザインを取り入れながら、発展させていきたい」と語った。


