人間の複雑さに未来を見る
午前中のインタビューの最後に、ひとつの問いを投げた。「AIが世界中の情報を瞬時にまとめてくれる時代に、わざわざ東京まで来て若者やイノベーターと顔を合わせる価値は、どこにありますか」。ヴィーニャは少し考えてから答えた。
「AIはハードウェアの問題には強い。しかし人間の感情や関係性といったソフトウェアの領域は苦手だ。人間はコンプリケイテッドな存在とは違う。コンプレックスな存在だから」
ヴィーニャはこの取材を例に挙げた。
「あなたが何を聞いてくるか、会う前には想像もできなかった。目を見て、声を聞いて、初めて対話が生まれた。それはダンスのようなもので、ニューラルネットワークの行列計算とはまったく別のことだ。車のインターフェースが“フィジタル”へ向かっているように、人間同士の関係も同じ方向に向かう」
この日、三度繰り返された言葉がある。「We audaciously redefine the limit of possible(私たちは大胆に、可能性の限界を再定義し続ける)」。インタビューでも、若者たちの前でも、イノベーターとの語らいでも。
「We」はフェラーリのことだ。そしてこの日、フェラーリのCEOは整備士の卵に修了証を渡し、イノベーターたちのテーブルを楽しそうに渡り歩き、自ら質問を重ねていた。フェラーリは、自分たちだけで限界を再定義できると思っているブランドではない。
整備士も、日本のパートナーも、この夜のイノベーターたちも、その「We」のなかにいる。この東京での一日は、その輪が着実に広がっていくことを予感させた。
フェラーリ ジャパン
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ベネデット・ヴィーニャ◎ピサ大学で物理学を修めた後、STマイクロエレクトロニクスに入社。MEMSモーションセンサーの開発を牽引し、iPhoneやゲーム機への採用に貢献。自動車業界未経験ながら2021年にフェラーリCEOに就任。電動化とヘリテージの両立を推進する。


