ヒューマン・マシン・インターフェース(HMI)や戦略部品の内製にこだわる一方で、オープンイノベーションも積極的に活用。「何をフェラーリのなかに残し、何を外に出すか、その判断基準は」と聞いた。
答えは二軸だった。まず、その技術がどれだけ長く生き続けるか。そして、競合との差別化のためにどれだけ自社でコントロールする必要があるか。
エンジン、バッテリー、アクスルは内製。これらはマラネロの「eビルディング」で電動でも、ハイブリッドでも、内燃でもつくれる設計にしてある。昨年9月にマラネロを訪れたとき、工場内にはまだ広大なフリースペースが残っていた事実がヴィーニャの言葉を裏付ける。将来、顧客が何を選ぶか、誰にも断言できないからだ。
外部パートナーに求めるのは、長期的に働く意志と、ユニークな製品を可能にするユニークな技術。「日本は、そういうパートナーを見つけられる場所だ」と言い、こう続けた。「学びがあるからこそ、改善が生まれる。私はそう考えています」。
新しい価値観の提示
重要な概念として、ヴィーニャは「フィジタル(Phygital)」について語る。タッチスクリーンだけに頼るのをやめ、物理ボタンとデジタル表示を意図的に組み合わせることで、人間の感覚(=フィジカル)とテクノロジー(=デジタル)を正しく接続しようとする設計哲学だ。
タッチスクリーンは「見なければ」使えない。物理ボタンは「触覚だけ」で操作できる。運転中、画面を見ずにボタンを押せることは、そのまま安全性に直結する。
加速度センサーをゲーム機のコントローラーに載せたとき、操作がシンプルになり、10代の少年だけのものだったゲームが中高年の男女へと広がった。技術は人間に歩み寄ってはじめて、より広く届く。
フェラーリ ルーチェではタッチスクリーンを最小限に抑え、物理ボタンを増やした。そのHMIを担当するのが、アップルのデザインを長年率いたジョナサン・アイブが独立後に設立したスタジオ「LoveFrom」だというから、この方向性は確信をもって選ばれたと見ていい。
「脳は、思っているほど高速ではない」
ヴィーニャはそう言って、少し笑った。人間の動作を長年センサーで計測してきた男の感性には、デジタルにすべてを任せることへの警戒が染み付いている。一方で、ヴィーニャの手首には、品のいい機械式時計が巻かれていた。電動車を語りながら、腕には機械式の時計。テクノロジーを知り尽くしているから、アナログの価値も正確にとらえられる。どちらかを捨てることなく、両方を意図的に選べる。“フィジタル”の先にある価値観を示唆しているようだった。


