資産運用

2026.04.09 16:26

専門知識×AIツールがもたらす「インテリジェンス・ギャップ」の時代

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Citrini Researchによる示唆に富む論文「The 2028 Global Intelligence Crisis」(こちら)は、とりわけ出来事の多い時期に業界の注目を集めた。あらゆる分野の「プロフェッショナル」から多くの批判が寄せられた一方で、私にとって、この種のシナリオ分析は、今日の時点では起こりそうに見えないとしても、大きな意義がある。発想の枠を超えて考えることを私たちに促すからだ。金融と科学はいずれも、当時の常識では起こり得ないと考えられていた出来事が、実際には起こり得ることが判明し、しかも両分野に「危機」をもたらしたエピソードに満ちている。ボルヘスの言葉「現実は必ずしも蓋然的でも起こりやすいわけでもない」は、「非現実は必ずしも非蓋然的でも起こりにくいわけでもない」と言い換えられる。私自身の信条は「想定外を想定する」ことであり、とりわけ技術革新が駆動する場合にはそうである。

例えば、私が金融を学んでいた頃、金利や利回りは決してマイナスになり得ないという破ることのできない「法則」があった。マイナスになれば無限の裁定取引が可能になってしまうからだ。ところが現実には、この「法則」は中央銀行家によって一時的に破られた。特に欧州と日本で、彼らがマイナス利回りを示唆する価格で債券を買い入れ、他者にも同様の行動を余儀なくさせたのである。科学にも、現在の考え方が、かつて不可能とされたまったく新しい思考に置き換わった例が数多い。例えば、古典物理学における「局所性」の仮定、すなわち物体は周囲の直近にある他の物体からのみ直接影響を受けるという前提は、量子コンピューティングという急成長分野で、量子もつれの帰結としての「非局所性」(いわゆる「遠隔作用の不気味さ」)に取って代わられつつある。

良くも悪くも、Citriniの記事は、AnthropicがExcel向けに同社のAIエンジンClaudeの極めて実用的なバージョンをリリースしたタイミングと重なった。これは、ここでの議論にとって格好の参照点である。私が1992年に理論物理から金融へ転じたとき、スプレッドシートに出会ったことがなかった。しかし、Lotus 1-2-3から始まり、その後Microsoft Excelへと進化した「入門」ののち、スプレッドシートが金融分析に本質的に適していることを私はすぐに理解した。金融は確率的でシナリオに基づく思考に依拠しており、それは厳密で、網羅的で、体系的で、何より明快でなければならないからだ。専門性は自然と、現在の実現可能性の限界に位置する、すなわち起こりにくいとしても「あり得る」シナリオをより多く想像できる力へとつながる。

スプレッドシートは、論理の各要素を長方形の枠内に整然と配置し、思考実験をその場で行えるようにしてくれる。ある種のモデルに基づき、原因と結果をリアルタイムで対応づけるのだ。スプレッドシートの力は、物理学者が実際に科学を行う方法と大きく違わない。データを得て、単純なモデルを作り、仮定やパラメータを変えて問題の直感的な像を深くつかむ。データと単純なモデルをいじりながら、さまざまな仮定とその帰結について、因果関係と方向性の手触りを得る。さらに実際の観測と照合することで、仮説を現実に照らして検証し、より良いモデルのためにスプレッドシートへ戻ることができる。これを日々、週々、月々、年々と反復していけば、メンタルモデルもスプレッドシートもさらに良くなる。そしてやがて直観が育ち、金融においては優位性となり、それは利益へと翻訳され得る。

最近リリースされたExcel向けClaudeは、このシナリオ分析の反復プロセスを指数関数的に加速させる点でゲームチェンジャーだ。ある領域で一定の経験を持つユーザーにとっては、控えめなスプレッドシートを最大級に強化する存在かもしれない。平易な言葉で指示するだけで、Visual BasicのコードやAPIに接続したり、自分で凝った関数を書いたりせずとも、スプレッドシートにさまざまな作業をさせられる(注意:自分が何をしているのか理解している必要があり、誤りの責任も依然として自分にある)。待つことなく思考実験の視覚的な配置を得られるようになった。これは極めて重要だ。私の領域では、ほぼ35年を費やしてきた今、アイデア、シナリオ、仮説を思いついてリアルタイムで検証することに、もはや実質的な障害がない。アナリストにアイデアを説明し、予備結果を待ち、そこから反復する必要はない。自然な英語でスプレッドシートと対話すればよいのだ。

私の言いたいことはこうだ。Claudeのようなツールが利用可能になることで、インテリジェンス・ギャップは爆発的に拡大する。私たちは重大な転換点、すなわち大きなレジーム転換の途上にいるように思える。領域の専門家と非専門家の差は、特に金融において、さらに広がるだろう。金融では、本当に有用な研究や発見の多くが未公開だからだ──うまくいくことを、なぜ誰にでも教える必要があるのか。多くの経済で富の格差が拡大しているのと並行して、専門家にとっての新しいツールキットは、こうしたツールを手にした専門家の知性と力と、非専門家のそれとの間の格差拡大の始まりを意味する。専門家の知性が「囲い込まれる」ことさえあり得る。専門家は領域知によって、関心を持つべき問いの範囲を絞り込める。そして、その発見が万人に模倣される形で公開されない限り、非専門家は、なぜ専門家が非専門家にはできないことをできるのかを理解できない。こうした動きの負の帰結の1つは、専門知が以前にも増して民主化されるのではなく、むしろ民主化されにくくなることだ。Claudeのようなツールは、誰にとっても競技場の「高さ」を引き上げるが、専門家と非専門家の間のギャップはさらに大きくなる。この潮流はすべての船を押し上げるかもしれないが、大きな船は小さな船以上に浮上する。私にとってこれは、世界的な知性の危機というより、領域知を持ち専門的な知性を構築できる側と、そうでない側の間に生じるグローバル・インテリジェンス・ギャップである。

では、この拡大するグローバル・インテリジェンス・ギャップにどう対処すべきで、それは投資にとって何を意味するのか。

第一に何より、この力学は徒弟制(アプレンティスシップ)に対するプレミアムを生む。高度な意思決定を要する分野では、1対1の徒弟的な学びが常に重要な役割を果たしてきた。今後、徒弟制の価値はいっそう重要になる。専門家の至近距離にいることでしか、新規参入者は、拡大し続けるギャップの中で取り残されないレベルの思考にアクセスできないからだ。第二に、異なる思考領域の交差点にあるドメインを選ぶことが決定的に重要になる。専門的思考は他領域から学ぶことで常に新たなイノベーションを生む(私の最近の経験では、ボラティリティ測定に音響工学の直観を適用したことが、その一例である)。第三に、専門性の新しいメカニズムを発見する人は、新たなイノベーションへと導く問いの順序を保護することに、より注意深くなる必要がある。適切な問いを適切な順序で問うことが、既知の問いへの対処法を知ること以上に重要なレジームへ、私たちは入りつつあるのかもしれないからだ。付随して、かつては長年を要した(実際、私の場合は学部と大学院で8年かかった)大量の研究や文献を読み、手作業で知識を統合する作業も、今やAIツールによって数分で、ほぼ完璧に実行できる。

市場に関して言えば──このレジーム転換の影響を完璧に予測するのは難しい。いくつかのタスク、いわば「低次」の知識はコモディティ化し、価格はゼロへと下落するだろう。明らかなデフレ・ショックである。一方で、専門的かつ独自の知を持つ人々は、これまで以上の価格決定力を持つようになる。ウォーレン・バフェットの言葉を言い換えれば、専門家として何かを選んで取り組むなら、飢饉の中ですら仕事はある。したがって、専門家が自らのサービスの価格を決められる一部領域では、これは明確にインフレ的である。そしてギャップが広がるほど、プレミアムも拡大する。そのプレミアムは、専門性が専門性を生む(減らすのではなく増やす)ことで指数関数的に成長し得る。

要するに──私にとって迫りくる危機とは、知性そのものの危機ではなく、分配の危機である。ここ数週間、AIの力を背後に持つスプレッドシートという単純なツールで実験してきた経験から言えば、この危機はすでに到来している。所得と富の不平等を測る伝統的なジニ係数が過去数十年で多くの国で上昇してきたのと同じように、私たちは「働く知性」のジニ係数も上昇し始める局面を目にしているのかもしれない。

forbes.com 原文

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