良かれ悪しかれ、ライドシェアリング業界の巨人ウーバーは、アメリカにおけるスタートアップの成功の象徴となった。今や多くのスタートアップが「Uber for X」(新分野のウーバー)を自称するようになり、ウーバーの5,000億ドル(約6兆円)もの企業価値や、従来のタクシー業界を破壊し、当局の規制を踏みにじる姿勢をも目標にして奮闘している。
しかし、金融サービスの世界は勝手が異なるようだ。規制は厳しく、既存の銀行は巨大で、ウーバーのような破壊的なイノベーションは起こしにくい。果たして、SoFiやBetterment、Wealthfrontなどのフィンテックは、ウーバーがタクシー業界で成し遂げたことを、金融業界において実現することができるのだろうか?
フィンテックはホットだが銀行は侮れない
10月20日に行われたエコノミスト誌主催の金融カンファレンス、「Buttonwood conference」には、ウォールストリートとシリコンバレーの企業の重役たちが集い、まさにこうした点について討論が行われた。そして、カンファレンス前半のセッションを通じて、一つのコンセンサスが形成された。それは、「フィンテックはホットだが、銀行を侮るべきではない」というものだ。
「あなたがフィンテックを、金融業界におけるウーバーと形容したのは興味深い」とDigital Asset HoldingsのCEOで、JPモルガンの重役も務めたBlythe Mastersは、エコノミスト誌編集長のZanny Minton Beddoesに話した。
「金融業界がフィンテックから受けるインパクトは、タクシー業界の状況に匹敵するかもしれないが、変化のメカニズムは異なる。その理由は、金融サービスはリムジンサービスと違い、人々のお金や、貯蓄、生活が関わるからだ」
Mastersは、金融サービスの変革はアメリカ人の生活全般に大きく影響し、ブルックリンまでのタクシーの乗り方を変えるのとは訳が違うとした。だからこそ金融サービスを取り巻く規制は他の業界とは比較にならないほど複雑であると述べた。また、100年以上の歴史を誇る大手銀行は、これらのルールへの対応において新興企業よりも優れている点を指摘した。
さらに、Mastersは、「新しいテクノロジーの登場によって、これまで銀行が提供してきた仲介業務や、資産の管理・保管業務など、極めて重要で厳しく規制されたサービスが一夜にしてなくなってしまうと考えるのは、認識が甘く、間違っている」と話した。また、彼女は伝統的な金融サービスにおいてもイノベーションが全く起きていない訳ではないと述べ、その例として、iPhoneを通じて請求書の支払いをしたり、小切手を預金することができることを挙げた。
Mastersの意見には、新時代のパイオニアの一人であるChris Larsenも同調した。LarsenはProsper Marketplaceの共同創業者で、送金サービスのスタートアップ、RippleのCEOだ。
「金融サービスで成功するためには、テクノロジー、資本市場におけるリスク管理、コンプライアンスという三つの主要な分野を調和させなければならないが、これらはシリコンバレーのスタートアップにとって経験値が少ない領域だ」とLarsenは言う。
「銀行を殺すとか、銀行業界を破壊するなどと息巻く連中は多いが、その大半はナンセンスだ。シリコンバレーは2年周期で動くのに対し、規制を変えるのには5から10年かかる。従来の銀行は、これらの分野を調整するのが得意だ」
しかし、銀行側にも課題はある。シティグループでチーフ・イノベーション・オフィサーを務めるDeborah Hopkinsは、銀行はこれまでスタートアップなど、小規模で若い企業と連携するのが得意でなかったことを認めた。
そして、銀行にとって、今後5年から10年で成功を収めるためには、スタートアップとのパートナーシップが鍵になると述べた。別のセッションでは、ウェルズ・ファーゴでイノベーショングループの責任者を務めるSteve Ellisが次の様に述べた。
「個人的な見解だが、銀行はとても内向き志向だ。会議では、顧客が最も重要だと言いながら、70ページある資料の中で顧客について触れているのは33ページ目だ。1ページ目になければおかしい」
以下、Part 2に続く。