サイエンス

2026.04.10 18:00

なぜ人間だけが「食べ物を加熱調理」するのか? 進化生物学者が解説

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調理は、我々の日常生活にあまりにがっちりと組み込まれているので、これがいかに特異な行為なのかという点は見過されがちだ。ごく普通のことに見えるかもしれないが、進化生物学の視点から見ると、燃え盛る火のそばに立ち、意図的に食物に熱を加えて変性させる人間の姿は、他に例のない行動に映る。

動物界全体で見ると、めまいがするほど複雑な方法で食物を見つけ、加工し、消費するように進化した種は、枚挙にいとまがないほど見つかっている。木の実を石で割る動物もいれば、発酵させる、貯蔵場所に蓄える、さらには化学物質を使って自分の食べるものを守る者までいる。しかし、我々現生人類につながる系統は、食物を加熱調理する方法を身につけたという点で一線を越えた特異な存在だ。

温かく調理された食物が食べられることを当たり前と思っている人は多い。その点でこの境界線は、たいした意味はないように見えるかもしれない。だが、実際には大きな意味がある。

このところ着実に増えている進化生物学の研究成果でも示されているように、加熱調理は、我々の食生活だけでなく、本当に多くの物事を変えた。種としての我々人間の姿を、根本からつくり替えたのだ。

料理をするのは本当に人間だけか?

加熱調理を行なうには、少なくとも生物学上の厳密な定義では、以下に挙げる3つの具体的な能力をすべて確実に使える状態である必要がある:

・外部熱源(通常は火)を制御して使う能力
・上記の熱源を使って、食材を意図的に加熱する能力
・暗黙知であれ、学んだものであれ、このプロセスが食物そのものを変性させるという認識

こうした一連の能力のうち、一部に近い行動をとる動物は数多く存在する。例えばチンパンジーは、道具を使って木の実を割ることが知られている。ニホンザルも、食べる前にサツマイモを洗う行動が観察されている。鳥の中には、小石を食べて砂嚢の中に貯めこみ、食べたものを歯を使わずにすりつぶす者さえいる。

こうした動物の行動は、間違いなく賢いものだ。しかも、時には文化として伝播するケースさえある。しかしどれも、加熱調理までには至っていない。それは、そこに至るために不可欠な一つの条件が満たされていないからだ──それは、火を制御して扱う能力だ。

信頼できるやり方で火を起こしたり管理したりできる動物は、この地球上には人間以外には存在しない。また、火がもたらす熱を計画的に食物に用いて、その性質を変えて消費できる動物も他にいない。

とはいえ一部の動物は、火を通した食物を好んで食べることが知られている。だがこれも、人間が動物のために調理したものを食べているだけだ。『Journal of Human Evolution』に2008年に掲載された研究では、現存するなかでは人間に最も近い動物である類人猿を対象として、調理した食物を好む隠れた傾向があるかどうかを検証している。捕獲された個体からなる複数のグループで、類人猿が、生の食物よりも火を通したものを好む傾向があることがわかった。ただしこれは、普遍的な好みというわけではなく、例外的に生の食材を好むこともあった。

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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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