これは、以前の生理学的研究の結果とも一致する。その一つが、2003年発表の『Comparative Biochemistry and Physiology Part A』に掲載された論文で、加熱調理が、現在の人間に連なる系統を大幅に塗り替えた可能性を示す、複数のメカニズムの概要が記された。以下にその内容を説明しよう。
第1に、加熱調理により、食物が持つエネルギーやカロリーが手に入れやすくなる。熱はタンパク質を変性させ、デンプンは糊化してゼリー状になり、植物の細胞壁も破壊される。その結果、食物の消化や代謝が、ずっと容易になる。そして、調理されていなければ活用されないままに体を通り過ぎるだけだったカロリーも吸収可能になる。
第2に、加熱調理はどうやら人間の体の在り方を変えたようだ。他の類人猿と比べると、人間の歯は非常に小さく、あごの筋肉組織も退化し、消化管も短くなっている(これは、特に大腸に関して顕著だ)。こうした身体的特徴は、物理的に噛み砕く必要や、腸内微生物による発酵作用を、以前ほど必要としない食生活とマッチしている。これを簡単に言えば、加熱調理は基本的に、これまで体内で行なわれていた消化プロセスを外部化したものということだ。
第3の説として、加熱調理が脳の増大を可能にした可能性がある。代謝の観点から見ると、人間の脳は、非常に「高コスト」な臓器だ。その大きさと釣り合わないほど、体のエネルギーを消費しているからだ。
そのため加熱調理は、摂取できるカロリー量を増加させ、同時に消化にかかるコストを削減するという意味で、脳の巨大化・複雑化を支えるために必要なエネルギーを確保するのに役立ったと考えられる。重要なのは、この説が、考古学上の年表で確認されている状況とよく一致しているという点だ。つまり、脳の大きさの増大が、人間の先祖が火を使用し始めた時期とおおむね一致しているという状況だ。
最後に、おそらく最も衝撃的な発見として、加熱調理への適応については、遺伝的なエビデンスも確認されている。2006年に『Genome Biology and Evolution』に掲載された研究では、人間の代謝に関連する遺伝子が、火の通った食事と、生のままの食事で、違った反応を見せることがわかった。さらに、これらの遺伝子の一部には、人間における正の選択(適応度の高い個体が増えていく過程)の兆候があることも判明した。
これが示唆するのは、現在の人間の体は、単に火の通った食事に耐性があるというのではなく、ある程度は、火の通った食事をとるように作られているということだ。
ここまで挙げてきた一連のエビデンスが教えてくれるのは、人間が、単に加熱調理をする唯一の動物であるだけでなく、生物学的な特徴についても、調理によって形作られてきた種だ、ということだ。


