この研究でわかった類人猿の好みには意味がある。なぜなら、火を通した食物に対して覚える魅力(食感が柔らかくなり、風味が増し、噛み切りやすくなるといった性質)が、人間が食物を加熱調理し始めた後に生じたわけではないことを示しているからだ。実際にはこうした嗜好は、調理を始める前から存在していた可能性が高い。
調理は、以前から存在していた、質が高く加工しやすい食物(熟れた果物や、柔らかい肉など)を好む傾向が、「外適応」(ある形質が、進化の過程で新しい機能を持つ現象)したものかもしれない。こうした性質は、人間が火を発見する前から、エネルギーの確保や効率性において優位であることが裏付けられていたはずだ。
言い換えれば、人類は初期の段階で、調理のメリットをわざわざ聞かされなくても、すでに感じ取っていた可能性があるということだ。
しかし、より物議を醸しそうなのは、この考えが、長年信じられてきた「火の使用は、加熱調理よりかなり前に始まっていた」という通説に異を唱えている点だ。我々の祖先が、火を通した食物を好む性質をすでに持っていたのであれば、加熱調理をしたいという意欲と、まさにその調理をするという目的で火を制御したいという欲求が、ほぼ同時に生まれた可能性はある。
だとしても、火を通した食物を好む性質だけでは、人間だけが加熱調理を行なう理由として十分ではない。火を通した食物のメリットを享受できる可能性がある動物は、他にも数多く存在するからだ。その中で、実際に一線を越え、火を通した食物を自ら作るようになった種は、我々人間だけなのだ。
人体をも変貌させた加熱調理
加熱調理が、人間だけが行なう行動である点は、すでに認識している人がほとんどだろう。ゆえに、なぜこれがそれほど重要なのか、いぶかしく思う人も多いかもしれない。その重要性を説明するために、進化生物学者がよく用いるのが「料理仮説」だ。これは、ハーバード大学のリチャード・ランガムの主導で展開され、実験や遺伝学の研究による裏付けも得ている。
この仮説は、主なポイントとして、調理が文化的に「後付け」されたものではないと主張している。ランガムによれば、これは生物学的に大きな意味を持つターニングポイントであり、我々の解剖学的特質や代謝、認知能力が根本的に変化したという。
この説に関する重要なエビデンスが、『Genome Biology and Evolution』に掲載された2016年の研究からもたらされた。制御された給餌実験により、人間の体が食物を分子レベルで消化する方法を、加熱調理が塗り替えたことが示された。


