こうした中でも、EUは依然としてセルビアにとって重要な経済上のパートナーだ。EUは同国の総貿易額の約3分の2を占め、外国直接投資でも同程度の割合を占めているため、中国への全面的な軸足移動はありそうにない。
セルビアの外交政策を試す中東情勢
先述のブクサノビチ博士は、米国によるイランへの軍事作戦が、長年にわたり独自の勢いを維持してきたセルビアと中国の関係を劇的に変えることはないとみている。同博士は、この不安定な状況がセルビアに「無難な道を選ぶ」よう促し、予測可能で現実的なパートナーへと傾くことになるだろうとの見方を示した。
しかし、原油価格の高騰が輸入に依存するセルビアの物価上昇を招いており、イラン情勢の不安定化による経済的影響は既に現れ始めている。中東の混乱は、中国政府が推進する巨大経済圏構想「一帯一路」の一部も書き換えることになった。ウクライナ侵攻によりロシアを経由する北回廊が遮断され、イランを経由する南回廊も制約を受ける中、中央アジアとバルカン半島を経由して中国と欧州を結ぶ、いわゆる「中回廊」が新たな重要性を帯びてきた。セルビアはこの回廊の中継拠点としての地位を確立しようと努めてきた。
ウラジスラウジェフは、セルビアのリスク回避戦略は情勢が比較的安定していた時期には有効に機能し、複数の協力関係から同時に利益を引き出すことが可能だったと評価している。だが、現在のような地政学的緊張が高まっている時期には、この戦略を維持することが困難になってくると指摘した。
ポーランド・ウッチ大学のバルトシュ・コワルスキ准教授は、セルビアの中国への傾倒はEUの失敗というよりは、むしろ国内の政治的配慮によるものだと分析している。同準教授によれば、法の支配や外交政策上の協調、コソボ問題に関するEUの基準を満たすことは「(セルビアの)支配層にとって、自ら座っている枝を切り落とすようなもの」だ。これとは対照的に、中国との関係を深めることは、セルビアの支配層の権力基盤を固め、国内での正当性を高めるのに役立っている。


