「メンパ」 という概念が静かに広がっている。人々はなぜ、刺激や効率よりも「心の消耗を避けること」を重視し始めたのか。マクアケ創業者による連載第62回。
「タイムパフォーマンス(タイパ)」という言葉がすっかり定着したが、最近人々の消費や行動のスタイルに、ある共通した変化が起きているように感じる。タイパのさらに先にある「メンタルパフォーマンス(メンパ)」という概念だ。「メンパ」について調べてみると「ストレスからの解放」といった説明が出てくる。日常のあらゆるシーンで、この「メンパ」のトレンドを感じる瞬間が増えている。
例えばアニメの世界。かつては、勝てるかどうかわからない強敵に立ち向かい、主人公が血のにじむような修行を重ね、挫折を乗り越えていくといったストーリーが王道だった。しかし今のトレンドでは、異世界に転生した主人公が最初から圧倒的な力で無双するというような設定が当たり前になりつつある。
スポーツ観戦も様変わりした。昔はリアルタイムで観戦してハラハラドキドキすることこそが醍醐味であり、結果のネタバレは言語道断だった。しかし今は、ニュースやSNSで先に結果を知り、安心した状態でダイジェスト映像を楽しむことがまったく苦ではないという人が増えているそうだ。映画やドラマも同様で、YouTubeなどでネタバレ解説をあらかじめ頭に入れてから本編を観る層が確実に増えていると感じる。
買い物においても変化は顕著だ。かつては多くの情報を検索し、比較検討を重ねて「自分に合うベストチョイス」を探し求めた。だが今は、自分が信頼するインフルエンサーや好みの情報ソースからのレコメンドに従って、サクッと意思決定してしまう人が多い。
そのほかにも、サウナやマインドフルネス、推し活といった「脳と精神的HPを充足させる」ための行動が人気だ。仕事でのちょっとした疑問も、人間に気を遣って精神的HPをすり減らすことを避け、AIに聞いてしまう気軽さが好まれている。共通しているのは、人々が脳や心の「ドキドキ」よりも「ナギ(凪)」を求めているという点だ。メンパとは、そのような状態を指す言葉だと表現する人もいる。
サボりではなく高度な防衛術
ここで、今の時代における「メンパ」を私なりにあらためて定義してみる。現代は情報が多く、人々は仕事や学校で考える脳を使い果し、感情のコントロールにも疲れ切っている。だからこそ、その必要がないシーンではできる限り脳の使用量を抑えつつ、精神にとって良い結果や実利的な結果を得たい。そして、予期せぬ精神的ダメージによって残りの精神的HPを減らしたくないという心理。さらに、精神的HPを温存することで、勝負どころで爆発的なパフォーマンスを発揮したいという心理──といったところだろうか。誤解してはならないのは、これは決して「サボり」ではないということだ。情報が氾濫し、常に何かに追われる現代社会を生き抜くために、現代人が身につけた高度な防衛術であり、戦略的な自己管理の習慣なのである。
しかし、昔も今も仕事や学校で脳が疲労していたことに変わりはないし、人間関係における感情のコントロールに疲れていたのも同じはずだ。重要なのは、それ以外の場所で「脳の疲れや精神的HPの削減を避けたい」という昔からあった本能的なニーズが、「メンパ」という言葉の発明、あるいは概念の言語化によって、一気に顕在化し始めたということだ。見えないニーズは市場になりにくいが、言葉を与えられ顕在化したニーズは、市場創出の可能性を帯びる。つまり、メンパは単なる一過性のトレンドではなく、これから本格的に立ち上がる「新市場」になるということだ。
今後、あらゆる産業の新サービス、新施策、新事業において、「いかにユーザーのメンパを高め(守り)ながら価値を提供できるか」という視点は、押さえるべき強いユーザーインサイトになるだろう。
なかやま・りょうたろう◎マクアケ代表取締役社長。サイバーエージェントを経て2013年にマクアケを創業し、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」をリリース。19年12月東証マザーズに上場した。



