ホルムズ海峡の封鎖による供給危機を緩和するため、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟の産油国から成る「OPECプラス」は、今月から原油生産量を日量20万6000バレル増産することで合意した。しかし、対立が長期化した場合、この増産分だけでは不十分となるだろう。したがって、米軍による軍事行動の拡大は危機を深刻化させ、一時的に原油価格を押し上げ、世界的なインフレを招く可能性が高い。
そうなれば、石油輸入国は中東以外の供給源への多様化を進めざるを得なくなる。このシナリオで最大の恩恵を受けるのは、中東以外の産油国だ。アンゴラ、アゼルバイジャン、ブラジル、ガイアナ、カザフスタン、ナミビア、ナイジェリアは、石油供給源の多様化に貢献しつつ、思わぬ利益を得られる可能性がある。ロシアも、特にアジア市場への輸出によって救済策を見出す可能性が高い。ホルムズ海峡の危機でさえ、ウクライナ侵攻に対する制裁で失われた欧州市場とのつながりをロシアが回復できる可能性は低いからだ。一方、このシナリオで損失を被るのは中東の産油国だ。このシナリオの下では、原油価格と液化天然ガス(LNG)価格は上昇を続ける可能性が高い。
シナリオ2 米国の勝利宣言と撤退
トランプ大統領は石油輸入国に対し「自力で石油を確保」するように助言したにもかかわらず、今のところ勝利を宣言して撤退し、ホルムズ海峡の問題を世界の他の国々に任せておこうというつもりはないようだ。とはいえ、たとえ混乱を招くとしても、経済的に不可能というわけではない。2010年以降、米国の石油生産量は急増しており、メキシコ、カナダ、ガイアナ、さらにはベネズエラといった西半球の産油国が、米国の石油需要を賄う一助となり得る。
だが、このシナリオは政治的に大惨事となる恐れがある。米国がイランに行動の自由を認めるならば、ロシアや中国といったイランの友好国が同国を抑え込む理由はない。ロシアは自国産の主力油種である「ウラル」の価格上昇から恩恵を受ける一方、中国は人民元でのホルムズ海峡の通行料の支払いを喜んで受け入れるだろう。ホルムズ海峡に通行料を課すという行為そのものが、航行の自由を含む国連海洋法条約の原則に違反することになる。その結果、国際法上の他の体制も崩壊する可能性が高いほか、マラッカ海峡やバブ・エル・マンデブ海峡といった他の重要な航路も封鎖され、通行料が課されるか、あるいは軍事的な争いの標的となるかもしれない。
このシナリオでも、原油価格はイラン攻撃前の水準を上回る可能性が高い。国際エネルギー市場はイランの政治的リスクを価格に織り込むことになる。ロシアと中国は、米国が世界経済を崩壊させて撤退する好戦的な国であるだけでなく、イランを制圧し、石油資源に恵まれた湾岸諸国を防衛する力さえ持たない国だと主張することができるようになる。中東の混乱は続くことになるだろう。


