信頼をベースにした「人的資本経営」の正体
アセスメントの結果、特に高く評価されたのが「ワーカー(従業員)」の領域だった。ここには、木村石鹸が標榜する「自律型組織」の真髄が詰まっている。
象徴的なのは、ルールの作り方だ。多くの企業は「不正を防ぐため」にルールを作り、ガバナンスを強化しようとする。しかし木村は、「社員を信頼して任せる」ことを前提に仕組みを構築している。例えば、業務に必要な書籍の購入だ。
同社には複雑な承認フローはなく、社員は自分の判断で自由に本を購入できる。唯一のルールは「買った本を公にすること」だけだ。「自分が本当に必要だと周囲に自信を持って言えるなら、漫画でも何でもいい」という社員への信頼に基づいている。長年この運用を続けているが、困ったことは一度もないという。
また、B Corpの求める「マイノリティーや立場の弱い人へのサポート」についても、木村石鹸は独自の解釈を行っている。同社では、地方から出てきた若手社員を「サポートが必要な層」と捉え、年に2回の帰省費用を会社が全額負担する「帰省手当」を設けている。これは仕事のスキルに対する報酬ではなく、社員の家族や生活そのものを大切にするという、会社の姿勢の現れだ。
さらに、経営者と社員の給与格差についても、最低年収に対して最高報酬を7倍以内に収めるという明確な制限を設けている。これらすべての施策は、B Corp認証のために作られたものではない。木村が一貫して実践してきた「社員を信頼して任せる」という経営姿勢が、結果としてB Corpの評価基準と合致したのだ。
一般的に、B Corpのアセスメントでは、細かいルールや仕組みで不正を防止し、継続性を担保する体制があることが前提とされている。木村石鹸の「信頼ベースの仕組み」は、その基準からすると管理体制が不十分に見えるかもしれない。しかし、取得を支援したコンサルタントは「むしろB Corpの基準側が追い付いていない部分。木村石鹸のやり方のほうが、これからの会社の希望になるのではないか」と評価した。



