その確信を深めるきっかけとなったのが、マーケターの河野武が提唱していた「最愛戦略」という考え方だった。愛される会社であれば、顧客は価格やスペックで比較検討するプロセスをショートカットし、「この会社を応援したい」という理由で商品を選んでくれる。顧客から「この会社には世の中にあってほしい」「なくなったら困る」と思われる関係性を築くことで、これからの時代における中小企業の生存戦略になるというものだ。
愛される会社を目指す中で、木村が共感する企業が取得していたB Corpに辿りついた。しかし、当時は日本語の情報がほとんどなく、日本企業の取得も10社に満たない状況。「興味はあったけど、近寄れなかった」と木村は振り返る。
自分たちの「当たり前」が世界標準だった
B Corpの取得プロセスは、多くの企業にとって苦難の連続だ。200項目に及ぶアセスメント(評価)は多岐にわたり、社会的なインパクトを数値化して証明しなければならない。一般的に、認証に必要な80点を超えるために、企業は新たにマニュアルを作成し、体制を変えることが多い。しかし、木村石鹸のやり方は異なっていた。
「実は、認証を取るために新たに何かを準備したわけではないんです」と木村は振り返る。
当初、ガイドブックを読んだ幹部からは、「難しすぎて、うちには無理なんじゃないか」という抵抗感があった。
例えば、取引先の代表者に占める人種的・民族的マイノリティー比率や、貧困地域のコミュニティとの取引状況を問うような設問は、理解しにくいものだったからだ。しかし勉強会に参加した際、実際にB Corp取得した企業の人や、取得するために支援をしているコンサルタントの話を通じて、木村は本質に気づいた。大切なのは、文字通り基準をクリアすることではなく、その精神を「自分たちの文脈でどう解釈し、向き合っているか」を説明することにあるのだ、と。
そこからのプロセスは、ある種の「自己分析」に近かった。自社が長年当たり前のように続けてきた取り組みが、B Corpの評価軸ではどのような意味を持つのかを1つひとつ翻訳していったのである。
その結果、木村石鹸は特別な対策を講じることなく、初回の挑戦で84.1点という高得点を獲得した。これは、平均的な企業のスコアが50点前後であることを考えれば、高得点と言える。同社が長年大切にしてきた「正直なものづくり」や「人を大切にする経営」が、そのままグローバルスタンダードな「いい会社」の基準に合致していたことが証明された瞬間だった。


