疾患に苦しむ人をなくしたい
このころ山口が始めたのが、皮膚から薬を投与する技術の研究だ。皮膚はバリア機能が高く、成分を入れるには通常、針を使う。山口は、塗るだけで成分を浸透させる技術を開発し、特許を取得した。この研究が科学技術振興機構のプレベンチャー事業に採択され、助成金を得たため起業。
「創薬は開発から流通までに時間がかかるので、バイオベンチャーはVCから資金調達するのが主流ですが、人を雇う以上は、自力で稼ぐ会社組織にしたかったのです」
収益化のため、まずは開発技術を美容に転用して化粧品をつくろうと考えたが、未経験の領域でらちが明かない。しかし、ここでも山口は懐に飛び込む力を発揮する。化粧品開発の仕事をしている知り合いにしつこく頼み続け、相手が根負けしてノウハウを伝授してくれたという。
こうして、皮膚から効率的に薬剤の浸透を促す素材「ナノキューブ」を配合した化粧品を自社ブランドで発売するが、程なく経営難に陥る。
「いいものをつくれば売れると信じて疑わないのが研究者。でも、実際に売るためにはマーケティングが必要。研究開発の現場と、市場のニーズに乖離があることに気づけなかった」と振り返る。コンサル出身者に社長を託したものの、莫大な広告宣伝費をかけたわりに商品は売れず、債務超過で倒産寸前まで追い込まれた。責任を取るかたちで社長に復帰した山口は、会社の借入金約4億円の個人保証を引き受けた。
それからは、広告のターゲット層を絞り、徹底的に無駄を排除して半年で黒字に転換。さらに2024年、軌道に乗ってきたスキンケアブランドなど一部事業を他社に譲渡し、資金を確保した。今後は創薬やアトピーをはじめとする疾患研究に注力し、独自のプラットフォーム概念をもとに“稼げる体質”を目指す。「ここまで来るのに20年もかかりました」と山口は苦笑する。「世界中の製薬会社と取引し、私たちの開発によって、疾患に苦しむ人を地球上からなくしたい。それを実現できる日は必ず来ると信じています」
WOMEN AWARD 2025
パイオニア賞
女性が少ない分野や新しい分野で先駆者として道を切り開いた女性に贈られる賞
やまぐち・ようこ◎1962年、静岡県生まれ。静岡大学大学院修士課程修了、独バイロイト大学博士課程取得(理学博士)。ダウコーニング、横浜国立大学大学院勤務を経て、聖マリアンナ医科大学難病治療センター准教授。2006年、ナノエッグを設立。


