米ハーバード大学ケネディ行政大学院でロシアの軍事戦略を専門とするスペンサー・ウォーレン博士は、ロシアがイランの防衛を支援するために軍隊を派遣する可能性があるというゼレンスキー大統領の見立てには同意しないと語る。「ロシアがイランに軍隊を派遣し、米国やイスラエルと直接対決するような事態は考えられない。そのような動きをロシアが自国の戦略的利益になると判断するとは思えない。これはリスクが大きすぎる。そのような展開は、たとえ意図せざるものであっても事態の悪化を招きかねない。その結果、欧米の部隊がウクライナに地上展開することになりかねないが、得られるものはあまりにも少ない。たとえロシアにその気があったとしても、現時点ではそれだけの能力を持っていない。ロシア軍はウクライナで膠着(こうちゃく)状態に陥っており、ここ数カ月間、進展はほとんど、あるいは全く見られない。同軍には第2戦線を開くための人員や物資が到底足りないだろう。ましてや、ウクライナとの戦争に複数の主要国の軍隊を直接巻き込むような第2戦線を開くことなど不可能だ」
他方で、ロシアが情報支援を含む他の形態でイランを支援しようとしているというゼレンスキー大統領の指摘に関しては、ウォーレン博士は同意している。「米国などはウクライナに対しても同様の支援を行ってきたため、ある意味では、これはロシアによる報復措置と見なすこともできるだろう。イランが中東各地にある米国の軍事拠点を標的にするのを支援することは、ロシアにとって、事態の深刻な発展を招くリスクを負うことなく、また貴重な人的・財政的資源を浪費することなく、米国の戦力を弱体化させるための手段の1つだ」
同博士は、ロシアとイランの防衛面での結び付きが深まっていることを踏まえると、ロシア産原油に対する制裁を緩和するという米国の最近の決定は理にかなっていないと考えている。「これはロシア経済にとって思わぬ利益となる。ロシア軍の進軍が停滞し続ける中で、ウクライナ侵攻が明らかに膠着状態に陥りつつあったまさにその時に、ロシアの戦争遂行能力を後押しする可能性がある。率直に言って、対ロシア制裁を解除することは、イラン攻撃の一環として米国のドナルド・トランプ政権が犯してきた数多くの戦略的失策の中でも最悪のものの1つになりかねない」
英ロンドン大学キングスカレッジでロシアの情報活動を専門とするエレナ・グロスフェルド博士も、ロシアがイランに自国の兵士を派遣する可能性があるとするゼレンスキー大統領の警告は的外れだとみている。「ロシアはウクライナの第1戦線で手一杯で、(イランで)第2戦線を開く余裕などない。ペルシャ湾の新たな戦線は、恐らく情報活動の支援にとっては都合の良い場所であり、ハイブリッド戦争となる可能性もある」


