テクノロジー

2026.04.05 14:08

ARが旅行の新インフラに──拡張現実で変わる観光体験

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Anna Belova(DEVAR創業者兼CEO、フィジタル企業、およびOpenWay.AI)。Forbes U30 Russia。テック起業家。ARおよびAI技術のエキスパート。

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観光は常に体験の産業であった。しかし今日、旅行者にとって単に場所を見るだけでは十分ではなくなっている。重要なのは、文脈を理解し、物語を生きることだ。世界が多層化するにつれ、没入型テクノロジーの役割は拡大している。とりわけ拡張現実(AR)がその中心にある。

ARは物理空間にデジタルの層と新たな意味を付け加える。国際観光がパンデミック前に近い水準へ回復し、2024年には約14億回の旅行が記録されるなか、注目の獲得と体験の質をめぐる競争は激化している。オーディエンスは、パーソナライズ、情報への即時アクセス、インタラクティブ性を求める。こうした文脈で、ARは現代の旅のインフラの一部となり得る。

デジタルの層としての空間

文化施設ごとに別々のアプリをインストールする時代は終わった。あらゆるスマートフォンで、ブラウザ上から直接ARコンテンツを起動できるWebARが、新たなインタラクションの形式を切り開いた。QRコードにカメラを向ければ、追加の情報レイヤーが表示される。

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空間の捉え方も変わりつつある。建物のファサードが物語を語らず、地図が静的なままで、土産物が命を吹き込まれないなら、デジタルに親和的な旅行者には「もったいない」と映るかもしれない。デジタル環境で育った世代は、世界をインタラクティブなものとして認識する。空間は応答しなければならない。観光関連の起業家はこれらのトレンドを注視し、可能性をより広く捉えるべきである。

サービスの一部としての歴史

観光におけるARの用途で、最も息の長いものの1つは歴史に結び付いている。人々は保存されたものだけでなく、失われたものも見たい。100年前、この通りはどのような姿だったのか。ARは過去を復元するだけでなく、それを日常の体験の一部にすることを可能にする。遺跡は3Dで再建でき、古い街区は息を吹き返す。

Research and Marketsによれば、世界の拡張現実市場は2032年までに6440億ドルを超える可能性がある。この成長の相当部分は教育、小売、観光から生まれる可能性がある。これらの産業には共通点がある。いずれも文脈を必要としているのだ。

都市にとって、ARは文化インフラのツールとなる。博物館にとっては、壁の外へと拡張する手段である。観光企業にとっては、空間への物理的な負荷を増やさずに価値を上乗せできる機会だ。

すでに整っている世界規模の基盤

観光におけるAR普及を長らく妨げてきた主要な問いは、ユーザーが十分に高性能なデバイスを持っているかどうかだった。今日、その問いには決着がついている。

最新データによれば、世界では約58億人がスマートフォンを利用しており、スマートフォンの総数は75億台を超える。これは、世界人口の約70%がスマートフォンを所有していることを示唆する。米国ではその割合が82%まで上昇する。

実際、ブラウザベースのARのインフラは、すでに観光客のポケットの中にある。

発展を遅らせていたもの

長い間、業界は明確な障壁に直面していた。3Dコンテンツの制作にはスタジオ、デザイナー、予算が必要だった。モバイルアプリを支えるには専任チームが要る。多くのプロジェクトはパイロットのままにとどまり、スケールしなかった。

しかし今日、状況は変わった。第一に、WebARが汎用的な配信チャネルになった。第二に、生成AIがコンテンツ制作コストを大幅に引き下げた。

AIにより、テキストの説明から3Dオブジェクトを作成し、アニメーションを生成し、素材を複数言語に適応させることが可能になった。かつて数週間かかっていた作業が、今でははるかに短い時間で行える。季節性と立ち上げスピードが重要な観光において、これはとりわけ価値が高い。

ホテル、博物館、市の行政機関のマーケティングチームは、自分たちでアイデアを試せるようになる。インタラクティブな周遊ルート、動き出すポストカード、リゾートやクルーズ船でのナビゲーションは、一度きりの実験ではなく、通常業務の一部になり得る。

次の段階:ウェアラブルデバイス

同時に、新たな技術サイクルも形成されつつある。スマートグラスはより軽く、より高性能になっている。現在、省電力プロセッサ、クラウドコンピューティング、コンピュータビジョンのブレークスルーによって、ARグラスは技術的に成熟した製品となりつつあり、大企業はすでに、2030年までに日常生活の一部になるという見通しを確信をもって語っている。いまスマートフォン向けに作られているコンテンツは、最小限の変更で明日にはグラス上で動かせる。

企業にとって、これは広範な影響をもたらし得る。フィジタル体験という概念は、おそらく標準になる。問われるのは、すでに今日、現実をつくり変え始めているこの新しい状況に、私たちがどれだけ速く適応できるかである。

測定可能な体験の経済

観光におけるARは、測定可能なシナリオの話である。ARは、エンゲージメント、滞在時間、ルートの人気を追跡できる。どの復元コンテンツが最後まで視聴されるのか、観光客がどこで進路を変えるのか、どのオファーがチケット購入につながるのかが見える。ARカタログのどの没入シーンが、ツアーやクルーズなどの予約につながるのかも把握できる。都市は特定地点における観光客の行動データを得られる。これらの分析は、人が現実空間でどのように意思決定するのかについての理解を形づくり得る。

旅行におけるARの限界

ARは勢いを増している一方で、直視すべき現実的な制約もある。ARはあらゆる旅行の瞬間に適するわけではなく、最大の制約は摩擦だ。通信状況が弱い、光が強すぎる、デバイスが古い、といった場合、体験は遅く感じられたり、信頼性に欠けたりする。位置情報やトラッキングも完璧ではない。特に屋内や、高層建築が密集してGPSが不安定な都市部ではそうである。

安全面の要因もある。混雑した通り、交通ハブ、屋外の地形では、画面を見つめながら歩くことを促すべきではない。そうした文脈では、ARは任意で軽量なものにするか、そもそも使わないほうがよい。

もう1つの制約は技術ではなく運用にある。ARコンテンツは「生きているレイヤー」であり、つまり保守が必要だ。正確性、翻訳、改修後の更新、ルート変更、新たな営業時間、季節のオファー。コンテンツが最新に保たれなければ、信頼はすぐに失われる。

最後に、観光はグローバルであるため、プライバシーとコンプライアンスが重要になる。AR体験が何らかのデータを収集するなら、企業は透明性を確保し、慎重かつ保守的である必要がある。特に、家族連れや学校の団体が含まれる場合はなおさらである。

結論

観光は、拡張現実に最も適した領域の1つである。観光はもともと物語、感情、発見に満ちている。ARはそれらを増幅し、空間をインタラクティブなインターフェースへと変える。

今日、私たちはテクノロジーがアクセス可能になり、AIのおかげでコンテンツ制作ツールが民主化された瞬間にいる。ウェアラブルデバイスは次の地平を生み出し得る。スマートフォンのブラウザ上のARは、スケーラビリティを提供できる。

旅における最良のARは、サービスのように振る舞う。混乱を減らし、文脈を加え、意思決定を助ける。観光の未来は、おそらく現実の仮想的な拡張であり、物理世界の上に追加の意味のレイヤーを旅行者へ提供するものになるだろう。

forbes.com 原文

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