経営・戦略

2026.04.04 12:59

シティAI責任者が明かす、全社18万人を動かすAI戦略の核心

Andreas Prott - stock.adobe.com

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シティは、ほかに匹敵する機関がほとんどない規模で事業を展開している。約180カ国にわたり顧客にサービスを提供し、日々数兆ドルの資金を動かす。同行のAI(人工知能)グローバル責任者であるショビット・ヴァルシュニーにとって、その規模はAIを効果的に展開する上での機会であると同時に課題でもある。

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ヴァルシュニーは2025年9月にシティへ入社し、全社横断のAI戦略を率いることになった。その任務を支える哲学は、彼がシンプルにこう要約する。「正しいAIを行い、AIを正しく行う」。グローバル銀行において、この違いは本質的である。

価値を先に、次にテクノロジー

ヴァルシュニーが強調するのは、シティにおけるAIはテクノロジーから始まるのではないという点だ。価値から始まる。「『正しいAIを行う』とは価値創出に集中することだ」と彼は強調した。「末端だけを自動化するのではなく、プロセスをエンドツーエンドで再設計しなければならない」

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このアプローチでは、自動化を導入する前に、不要なステップを簡素化するか排除することが求められる。レガシーなワークフローを漸進的に改善するのではなく、シティはチームに対して全面的な見直しを促す。狙いは小幅な効率改善ではなく、意味のある変革であり、しばしば30%以上の改善を目標に据える。この哲学は、実験を先行させるモデルからのより大きな転換を映し出している。個別のパイロットを立ち上げてユースケースを探すのではなく、シティは望ましいビジネス成果を先に定義し、価値を定量化し、ソリューションを構築する前にリーダーシップの足並みをそろえる。

AIをスケールで構築する

その野心を支えるため、シティは全社規模での拡張を想定した集約型AIプラットフォームを開発してきた。このプラットフォームはモジュール型で、マルチモデルかつマルチクラウドであり、統制を維持しながら柔軟性を可能にする。ヴァルシュニーは、多くのAIユースケースには共通のパターンがあると説明する。「かなりの頻度で、共通パターンを持つユースケースが数多く見られる」と彼は述べた。「それらは中央でサービスとして提供すべきだ」

このアプローチは重複を減らし、展開を加速する。各事業部がそれぞれ独自のツールを作る代わりに、シティは機能横断で再利用できる共通能力を開発する。モデルが改善されれば、その強化は組織全体に波及する。その結果、スピードと一貫性の両方が得られる。現在、18万2000人以上の従業員がAIツールにアクセスでき、そのうち70%以上が実際に利用している。こうした採用の水準は、使いやすさとガバナンス(統治)に意図的に注力してきたことを反映している。

採用に向けた二正面のアプローチ

シティのAI戦略は、ボトムアップとトップダウンという2つの補完的アプローチを組み合わせている。ボトムアップの側面では、同社の

社内大規模言語モデル(LLM)ゲートウェイなどの生産性ツールを提供し、従業員が日々のワークフローにAIを組み込めるようにしている。これらのツールは要約からソフトウェア開発まで幅広いタスクを支援し、シティはすでに大きな生産性向上を実現している。

トップダウンの側面では、経営陣が組織横断で最重要プロセスの再設計に焦点を当てる。そこには、顧客オンボーディング、アンチマネーロンダリング(AML)調査、リスク管理といった複雑なワークフローが含まれる。毎週、シニアエグゼクティブがこれらの取り組みの進捗を確認し、ボトルネックに対処し、整合性を担保する。こうした経営陣の高い関与により、AIの取り組みは実験段階から全社的インパクトへと移行しやすくなる。

文化が増幅装置になる

ヴァルシュニーは、相応の文化的変化が伴わなければテクノロジーだけでは不十分だと考えている。シティは、従業員全体にAIファーストのマインドセットを根付かせるために大きく投資してきた。従業員に生成AIのトレーニングを義務づけ、事業部門に埋め込まれた約4000人のAI「アクセラレーターおよびチャンピオン」のネットワークを構築した。彼らは同僚が実務に即した形でAIを採用するのを支援し、トップダウンの指導ではなく、同僚同士の関与を通じて学びを強化している。

「人は、2つ隣の机の人から学ぶ」とヴァルシュニーは言う。「それが本当の変化を生む方法だ」。この草の根のアプローチは、AIに焦点を当てたイベントや社内ショーケースといった幅広い施策を補完し、実験を当たり前のものにし、採用を加速させる。

責任あるAIを基盤として

規制の厳しい業界において、責任あるAIは選択肢ではない。ヴァルシュニーは、ガバナンスは当初から組み込まれていなければならないと強調する。「AIを正しく行うことは、責任あるAIから始まる」と彼は重ねて述べ、倫理原則、リスク管理、部門横断の協働の必要性を強調した。

シティは、既存のリスク管理フレームワークを拡張し、生成AIやエージェント型AI(一定の枠組みの中でより自律的に振る舞うAI)の複雑性に対応している。これには、テクノロジー、リスク、コンプライアンス、監査の各機能の連携に加え、AIリスク委員会の設置も含まれる。開発プロセスの早い段階から関係者を巻き込むことで、後工程での摩擦を減らし、初日から規制・運用要件を満たすソリューションであることを担保する。

自動化から再構想へ

ヴァルシュニーが繰り返し語るテーマの1つは、漸進的な自動化を超え、真のプロセス再構想へ移行する必要性である。彼はこの変化を食洗機の導入になぞらえる。手洗いの皿洗いを速く再現するのではなく、テクノロジーはプロセスを丸ごと変え、工程を減らし、スケールを可能にした。「マインドセットの転換は、より速いこすり洗いから食洗機へ、ということだ」と彼は言う。この比喩は、シティのより大きな野心——仕事のやり方を単に速くするのではなく、仕事が行われる仕組みそのものを再考する——を捉えている。

今後の展望:エージェント、そしてその先へ

今後についてヴァルシュニーは、定められたガードレール(許容範囲)の中でシステムがより自律的な役割を担うエージェント型AIに大きな可能性を見ている。現在の実装では人間の監督を維持しているものの、時間とともに自律性は高まると彼は見込む。

また、継続的な影響領域としてソフトウェア開発の進展を挙げるとともに、より長期的にはAIと量子コンピューティングの収束にも言及した。「私たちはこの旅の始まりにいるにすぎない」と彼は言う。

シティの規模では、たとえ漸進的な改善であっても影響は非常に大きくなり得る。それでもヴァルシュニーの焦点は最適化ではなく変革にあり、AIが組織の中核において事業運営のあり方を作り変えることを確かなものにしようとしている。

ピーター・ハイは、ビジネスおよびITのアドバイザリーファームであるMetis Strategyの社長である。最新刊のGetting to Nimbleを含む、ベストセラー3冊の著者でもある。さらに、Technovationのポッドキャストシリーズのモデレーターを務め、世界各地のカンファレンスで講演している。Xでは@PeterAHighをフォロー。

forbes.com 原文

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