およそ1カ月前、フォルクスワーゲン(VW)社の排ガス不正問題が発覚した際、筆者はフォーブスの記事で疑問を呈した。
「同社の不正なソフトウェアにより、消費者は本当に食い物にされたと言えるのだろうか。それは今後のリコールに車のオーナーらがどう対応するかで明らかになるだろう」と述べた。
するとその直後から、これに対する厳しい反応が寄せられた。ある人は、「この男は読者を煙に巻こうとしている」とコメント。「自分たちは環境性能の高さを理由にVWの車を購入したのであり、不正が明らかになったことでひどくだまされた気持ちになった」との声も出た。
だが、彼らが主張するように、車の燃費や加速性能よりも環境性能のほうが大事だと考える人がどれだけいるのだろうか。私が指摘したかったのはその点だ。
そして、これについてはニューヨーク・タイムズ(NYT)も同様の見解を示している。同紙が掲載した記事で、私がカリフォルニア大気資源局らの専門家から聞いたことが事実だということが分かった。「VWのディーゼル車のオーナーがリコールに応じるよう強制される可能性はほとんどない」という。さらに同紙は「オーナーたちはVWが補償金を支払わない限り、リコールには応じないだろう」とも報じている。
クリーンディーゼル・エンジンを搭載した2013年モデルの「パサート」を所有する某オーナーは「車の性能が落ちるならば、私はリコールも再プログラミングも、修理も望まない。私は排ガス規制を考えて車を選んだわけではない」と話した。
混乱の原因は「リコール命令」という言葉だ。読者の中には恐らく、これはオーナーらに対し、リコールを強制するものだと考える人もいるだろう。だが、実際にはこれは、「自動車メーカーにリコールの実施を命じる」ものだ。現在、VW車のオーナーにはあくまで「任意での対応」が求められている。ただし、リコールに応じるオーナーがあまりに少なければ、当局は今年フィアット・クライスラーに対して実施したのと同様、VWに「対象車の買い戻し」を指示することができる。
さらに、各州当局は修理を行っていない車両の登録を拒否することもできる。だが、これは異例の措置であり、これまでに実施されたことはない。カリフォルニア大気資源局も「当局に登録を拒否するよう要請することはできるが、それを行うのはVWがリコールに応じる割合があまりに低いと報告してきた場合だけだ」と説明した。
NYTによれば、ニュージャージー州も未修理の車両の登録を禁止する州法を定めている。しかし、これまでのところ同法に基づいて実際に登録が拒否された例はない。その他の多くの州では、排出量試験を義務付けていないか、ディーゼル車を試験の対象外としている。
消費者は民事裁判の弁護士ほどには、製品の警告ラベルに注意を払わない。オーナーらは確実にリコールの通知に応じるわけではない。顧客らに何らかのメリットを与えない限り、今回のリコールが失敗に終わると予想するのは、理不尽なことではないだろう。
米国で長きにわたり、自動車の安全性に関する活動を行ってきた消費者保護活動家のラルフ・ネーダーも同じ意見だ。彼が開設した、大企業の不正を告発する博物館「American Museum of Tort Law」での取材で、私はネーダーに聞いてみた。
VW車のオーナーらは、自発的にリコールに応じるだろうか? 彼の答は「ノー」だった。「フォルクスワーゲンはオーナーたちに金を支払わなければならないだろう」とネーダーは言った。