イランでの戦争は、経済見通しを複雑にする。下振れリスクは大きい。すなわち世界的な景気後退である。一方でホルムズ海峡が迅速に再開されれば、1カ月前の従来の予測——米国の安定的な経済成長——に戻る。将来が確実でないのはいつものことだが、常にここまで不確実というわけではない。企業の従来の事業戦略は捨てるべきではないが、一定の調整には合理性があるかもしれない。
戦前の経済予測
戦争前、米国の経済見通しは安定していた。2025年第4四半期の国内総生産(GDP)成長率は、政府機関の閉鎖の影響もあってやや低調だったが、2026年第1四半期には反発が見込まれていた。その後は、消費者の需要と企業の設備投資に支えられた緩やかな成長が続くと予想していた。インフレ率は連邦準備制度理事会(FRB)の目標を上回るペースで推移していた。雇用は横ばいで推移していたが、移民による労働力の増加がなければ力強さを取り戻すことは難しい状況だった(現在、生産年齢人口は増加していない)。平時のシナリオでは、FRBは2026年に短期金利を引き下げることはないだろう。
イラン戦争の経済リスク
イラン戦争の最も深刻な経済的帰結は、世界の石油の20%が通過するホルムズ海峡が事実上閉鎖されることである。石油は世界のエネルギーのおよそ3分の1を供給しているため、ペルシャ湾は世界のエネルギー使用の6〜7%を占める計算になる。海峡の閉鎖が続けば、世界経済は縮小を余儀なくされる。エネルギーを比較的あまり必要としない経済活動もあれば、極めてエネルギー集約的な部門もある。概算では、海峡が1年間閉鎖されれば世界のGDPを数%押し下げることになる。それは景気後退に当たる。
米国は石油の純輸出国であるにもかかわらず、この景気悪化の影響を受ける。原油と石油製品は世界規模で売買されている。米国の消費者と企業は世界価格を支払わなければならない。さもなければ、生産者は製品を海外に出荷してしまうからだ。
長期的には、エネルギー供給はかなり弾力的である。価格が上がれば新たなエネルギーが市場に投入される。しかし、それには時間がかかる。短期的には選択肢が限られる。新たな石油の発見にも時間がかかる。有望な地点を地質調査で特定し、試掘井を掘削し、その後に生産井を掘り、最後に輸送システムを整備する必要がある。これには往々にして10年程度、前後のぶれを伴いながら要する。
イラン戦争下の事業戦略
イラン戦争が景気後退を引き起こすほど長期化するかどうかは分からないが、そのリスクは確実に存在する。経営者がまず取るべきステップは、自社が一般的な景気後退に対してどの程度敏感か、また石油を起因とする景気後退に対して特に脆弱かどうかを点検することである。業界によって景気への感応度は異なる。最も影響を受けやすいのは建設業、資本財製造業、耐久消費財製造業である。比較的影響が軽微なのは、ヘルスケア、生活必需品、多くのサービス分野である。
景気循環に対する一般的な感応度に加えて、自社の石油価格に対する感応度も検討すべきである。石油を直接使用する企業だけでなく、プラスチックなど石油を原料とする企業も影響を受ける。製品が石油以外の代替品と競合する場合にも注意が必要だ。石油を大量に使用しているからといって、石油価格の高騰で必ずしも大きな打撃を受けるわけではない。例えば、米国のトラック運送業界は、石油価格が高かった年でも好調だったことがある。重要な違いは、燃料コストの上昇分を顧客に転嫁できるかどうかである。輸送の多くは必然的にトラックに頼らざるを得ない。運送会社は燃料コストを賄うために価格を引き上げ、事業を継続する。最も打撃を受けるのは、価格を上げると顧客が離れてしまう企業である。顧客は代替製品に切り替えるかもしれないし、単に購入をやめて、一見無関係な製品に支出を振り向けるかもしれない。企業や業界の過去のデータを分析すれば、石油価格高騰に対する感応度を把握するのに役立つ。
特定の企業のイラン戦争リスクに対する感応度を評価した後の第2ステップは、容易に実行できる当面の意思決定に目を向けることである。大規模な拡張を計画している企業は、プロジェクトの開始を遅らせたほうがよいかもしれない。手元資金の大半を使い切る買収は、後回しにできる。これらは戦略の恒久的な変更ではないため、実行しやすい。
大規模な新規プロジェクトの途中にある企業は、おそらく中断すべきではない。一般的に、十分に検討された戦略を持つ企業は、その大枠を維持すべきだろう。景気後退リスクが薄れるまで、手元資金を温存しリスクを軽減するために細部を調整することは可能である。
イラン戦争終結後の経済予測
イラン戦争が4月中旬より前に早期に終結するなら、事業はほとんど何事もなかったかのように再開できるだろう。起こり得る変化の1つは、戦前の水準と比べた原油価格の一定の上振れが残ることだ(これについては次の段落で述べる)。世界の石油市場の脆弱性について学んだことを踏まえ、多くの企業が全体戦略を見直すかもしれない。エネルギー源を選べる企業の一部は、石油を避ける可能性もある。ただし、ほとんどの変化は小幅にとどまるだろう。
海峡が数カ月間閉鎖されれば、短期的にも長期的にも影響が生じる。原油価格が非常に高い水準にとどまるのは明らかだ。これは、消費者と企業に石油使用量を減らさせるための経済の仕組みである。節約を呼びかける公共広告は必要ない。価格の上昇がその役割を果たす。石油を本当に必要としない人は、別のエネルギー源を見つけるか、単に使用をやめるだろう。高騰した石油価格を払い続けることができない企業は操業を停止し、雇用が失われることになる。また、消費者はガソリンの使用量を減らしても、裁量的支出を削減する。限られた予算の中で、通常は両方を少しずつ削るものだ。これが短期的な影響である。
しかしホルムズ海峡の閉鎖が1カ月以上続けば、長期的な帰結も引き起こす。すなわち、石油生産は何年にもわたり損なわれる。油井は巨大な貯蔵容器の蛇口のようなものではない。石油は岩石を通って流れる。流れを突然止めると、油田の生涯生産量が減少し得る。場合によっては、油井が生産再開に至らないこともある。また別の場合には、本来得られたはずの将来の生産量が低下する。つまり、たとえ夏に海峡が再開したとしても、石油生産は戦前の水準に戻れない。エネルギー価格も戦前の水準には戻らない。直近の高値が続くわけではないが、2026年初頭に見られた60ドルの水準まで下がることもないだろう。
このシナリオでは、将来の原油価格がやや高くなることを除けば、事業は大きな変化なく継続する。
事業戦略の要約
総じて、企業はパニックに陥るべきではない。戦略の大幅な変更が必要となるのは、ごく少数の例外的なケースに限られる。経営者は深呼吸をし、現在の戦略を選んだ根本的な理由を振り返り、そして前に進むべきである。



