米国産LNGの皮肉な現状
ここで、筆者がつくづく皮肉に感じる点に話を移したい。
米国は世界最大の液化天然ガス(LNG)輸出国である。米エネルギー情報局(EIA)によると、米国のLNG年間輸出量は2016年にゼロに近かったところから2025年には約5.5兆立方フィート(約1500億立方メートル、約1億1000万トン)にまで急増している。
2016年2月に輸出向けのLNGを米南部ルイジアナ州サビン・パスから初出荷したシェニエール・エナジーは、メキシコ湾岸の液化ターミナルの建設や拡張に500億ドル(約8兆円)以上を投じてきた。同社によれば、これらのターミナルの年間生産能力は2030年代半ばまでに1億トンを超える可能性がある。
ところが、ジョーンズ法の要件を完全に満たすLNGタンカーは1隻も存在しない。1隻もだ。
つまり、米国はLNGを欧州やアジアなどに輸出はできても、そうした貿易に必要となるような大型船を使って、メキシコ湾岸から国内のニューイングランド(北東部6州)、あるいは米自治領のプエルトリコへ輸送することはできないということだ。
その結果は率直に言ってばかげている。ニューイングランドにとっては、LNGを自国内のメキシコ湾岸から調達するよりも、国外から(つい最近まではカタールからでさえ)輸入するほうが安上がりなのだ。米国は世界最大の天然ガス生産国でありながら、大勢の国民がこの国産資源に手ごろな価格でアクセスできない状態に陥っている。筆者の見るに、これは最悪レベルの政策の失敗だ。
ゴールドマン・サックスはジョーンズ法の60日間の適用停止について、メキシコ湾岸から東海岸への原油や石油精製品の輸送を緩和する可能性があり、燃料価格の押し下げにもつながるかもしれないとみている。とはいえ、これはあくまで応急処置にすぎず、長期的な解決策ではない。
マネーはどこへ流れているのか
現在の状況は、投資家にとっては魅力的に映る面もあるだろう。イランをめぐる紛争により、世界のLNG供給の約5分の1が停止した。イランの報復攻撃でカタールのLNG輸出能力の17%が損傷し、修復には最長5年かかる可能性がある。LNGタンカーのスポット運賃は1日あたり約18万ドル(約2900万円)に達していると伝えられ、ゴールドマン・サックスはLNG市場の混乱は2027年まで続くと予想している。


