By Randall S. Peterson(ロンドン・ビジネス・スクール 組織行動学教授)
取締役会議長の役割は、これまでになく複雑であり、同時にこれまでになく重要になっている。地政学的な不安定さが強まり、ステークホルダーの期待が競合し、規制環境が一段と入り組むなかで、取締役会議長の仕事は権威の座から、オーケストレーションとファシリテーションを強く求める役割へと進化した。今日の議長は、対立し得る多様な利害の間を仲介するだけでなく、技術的ディスラプション、社会的監視、前例のないオペレーショナルリスクを取締役会が乗り越えるのを支えなければならない。2026年に有能な取締役会議長を規定するスキルは、10年前のそれとは異なる。
権威からオーケストレーションへ
伝統的に、取締役会議長は経営幹部としての経験と戦略的な洞察力を評価されてきた。これらの資質はいまなお重要だが、それだけでは不十分である。FTSE上場企業の取締役100人を対象にロンドン・ビジネス・スクールが進める継続研究によれば、今日の議長には、膨大な情報を統合し、矛盾を調停し、建設的な対話を育む卓越性が求められる。優れた議長は巧みなファシリテーターであり、取締役が互いに異議を唱え、多様な視点を共有し、複雑な問題を共同で解くことのできる心理的安全性の高い環境をつくれる。
学習する文化をつくる
「正解」と「不正解」がますます見えにくくなり、昨日の戦略が明日には陳腐化しかねない世界では、取締役会は機敏で協働的でなければならない。有能な議長は学習の文化を育み、すべての取締役が十分に、かつ敬意をもって貢献できるようにする。これは、非公式な場と構造化された評価の双方を通じて、率直なフィードバックを促すことを意味する。先進的な取締役会のなかには、会議室でのやり取りを分析し改善の機会を可視化するために、AIツールを用いるところも出てきている。
相反する見解を受け入れることも不可欠である。多数決で結論を押し通すのではなく、最も有能な議長は熟考と合意形成のための時間を確保する。合意に至らない場合、可能な限り意思決定を先送りする。取締役会の結束と長期的な有効性には、すべての取締役の関与を維持することが必要だと理解しているからである。投票は、会議室で主流ではない見解を持つ取締役を黙らせるための武器になり得る。しかし研究は、少数意見が学習を促し、たとえその少数意見が誤っていたとしても、発散的思考を通じて取締役会の意思決定をより良くすることを示している。
重要なのは、今日の議長が結果を操作することを避ける点である。代わりに、自らの見解は慎重に示し、議論を促し、自分の考えが支配的にならないようにする。このアプローチは議論をより豊かなものにし、最終的により良い意思決定へとつながる。
多様な知識とスキルをマネジメントする
取締役会が人口統計上も専門性の面でも多様化するにつれ、議長はその多様性が単なる象徴ではなく、関連性があり包摂的であることを担保しなければならない。定期的なスキル監査はギャップを特定し、取締役の採用に資する。目的は多様性そのものではなく、企業の戦略的ニーズに合致した集合的スキルを備える取締役会をつくることにある。
議長は専門性の力学を管理する責任も負う。AIやサイバーセキュリティのような領域の専門家が取締役会に加わることで、他の取締役が専門家に過度に依存し、より広い事業上のトレードオフを見落とすリスクが生じる。有能な議長は、専門家が会議に先立って洞察を共有することを促し、すべての取締役が議論に実質的に参加できるようにする。
好奇心を促すことも、現代の議長を特徴づける要素である。資料を事前に配布し、質問や新しい視点を奨励することで、議長は取締役会が集団浅慮に陥るのを防ぎ、革新的な解決策を浮かび上がらせる。
ステークホルダー間のトレードオフを均衡させる
おそらく、今日の議長にとって最大の課題は、多様なステークホルダーの競合する要求をマネジメントすることだろう。利益の最大化を図りながら、サステナビリティ、AI、多様性といった課題に配慮するにはトレードオフが伴う。例として英国の水道会社を考えてみよう。取締役会は歴史的に、料金の引き下げを求める利用者や下水漏出の減少を望む環境保護の立場よりも、株主を優先してきた。異なるステークホルダーの要求に対応するために必要なトレードオフを検討しなかった結果、いま規制当局の反発に直面している。
有能な議長はステークホルダーと先回りして関与し、利害をマッピングし、企業への潜在的影響を評価する。取締役会が理解すべきなのは、ステークホルダーが何を望むかだけではない。どの集団であれ無視した場合のリスクでもある。こうしたアプローチにより、取締役会はより情報に基づいたバランスの取れた意思決定が可能になり、規制当局に反応的なコンプライアンスを強いられる事態を避けられる。
取締役会と経営陣のパートナーシップ
地政学リスクからテクノロジーまで、取締役会がより多くの情報とより深い関与を求めるようになったことで、CEOや上級幹部にかかる負荷も増大している。議長は仲介者として、経営陣に対する取締役会の要求のマネジメントを助け、ステークホルダーとの関与に関する責任を分かち合わなければならない。
新しいガバナンスモデルは、取締役会と経営陣の間にパートナーシップの文化を求める。議長はCEOを監督するだけでなく、ともに働く必要がある。そのうえで、議長が取締役会の見解から完全に切り離されないよう、筆頭独立社外取締役を任命する取締役会もあれば、特定の経営幹部に対するスチュワードとして社外取締役を割り当てる取締役会もある。いずれにおいても鍵となるのは、オペレーション上の責任に踏み込み過ぎることなくCEOを支え、相互尊重に基づく関係を維持することだ。
拡大する議長の役割
現代の取締役会議長は、ファシリテーターであり、コーチであり、調停者であり、ストラテジストである。極めて多様なチームをマネジメントし、CEOとのより緊密な関係を築き、複数のステークホルダー集団のしばしば相反する利害を均衡させなければならない。同時に、AIによるディスラプションや気候変動のような複雑なリスクと並行して、いっそう脆弱な地政学環境を航行する必要がある。
この役割に求められるものは、これまでになく大きい。しかし、情報を統合し、学習を促し、複雑性をマネジメントする能力といった適切なスキルを持つ人にとって、これほど刺激的な役割はない。適任者が議長席に座れば、取締役会は複雑性のなかで企業が生き残るだけでなく成長するための備えをより整えられる。
Dr. Randall S. Petersonは組織行動学教授である。研究と教育の焦点は、CEOのパーソナリティ、トップマネジメントチームの相互作用、取締役会のダイナミクス、多様なチームのリード、コンフリクト・マネジメント、そしてメンバーのパーソナリティが集団の相互作用とパフォーマンスに与える影響である。最新刊は『Disaster in the Boardroom: Six Dysfunctions Everyone Should Understand』。



