気候・環境

2026.04.24 13:15

見過ごされてきた「水」の危機 デジタル経済への影響は

(C) Conservation International/photo by Johnson Rakotoniaina

(C) Conservation International/photo by Johnson Rakotoniaina

いま、日本の産業戦略において重要な位置を占める半導体製造。熊本のTSMCや北海道のラピダスに対する巨額投資が話題になっていますが、これら最先端工場の「生命線」が膨大な量の淡水であることはあまり注目されていません。半導体チップの洗浄やデータセンターにおけるAI負荷の冷却には、かつてないほどの大量の水が必要とされています。

地球上のすべての水を4Lの容器に入れたとすると、その97%は海水です。人間が利用できる「淡水」は、わずか3個の氷のキューブにすぎず、そのうち2個は氷河として凍結しています。つまり、雨水や河川、地下水などから供給され、農業・工業・人々の暮らしを支える「再生可能な水資源」は、地球上の全水量のわずか1%未満にすぎないのです。

これまで、このアクセス可能な淡水は、空気と同じように「無料の公共財」として扱われてきました。しかし今や、企業の競争力を左右し、経済安全保障を形作る「戦略的な自然資本」へと変貌を遂げつつあります。

日本は水資源に恵まれているように見えます。年間降水量は多く、ダムや河川も適切に管理されています。しかし、日本は水消費の多い製品の「純輸入国」であり、その経済は諸外国の水資源に依存しています。この隠れた水の流れは「バーチャルウォーター(仮想水)」と呼ばれ、輸入製品の生産過程で使用される水を指します。

世界の淡水の水使用量の約70%は、農業によって消費されています。あなたが朝飲むコーヒーや、お気に入りのコットンTシャツは、数千キロ離れたコロンビアやバングラデシュの河川流域とつながっているのです。具体的には、栽培から加工、配送を経て手元に届くまでに、一杯のコーヒーには約140Lの水が必要です。コットンTシャツ1枚には約2700L、200gの牛ステーキには約3000L(浴槽12〜15杯分)もの水が使われています。

(C)Fan Yang
(C)Fan Yang

あまり知られていない事実ですが、淡水の生態系は、他のどのバイオームよりも速いスピードで崩壊しています。淡水種の個体数は1970年以来、80%以上も激減しました。また、世界の「天然のフィルター」である湿地は、森林の3倍の速さで消失しており、都市や産業が清浄な淡水を維持するために依存している重要なインフラを弱体化させています。

リスクは「量」と「質」の二重構造になっています。2030年までに、世界の水需要は供給を約40%上回る可能性があり、世界人口の半分が一年の一部を深刻な水不足の中で過ごすことになります。この危機に拍車をかけているのが、「水質汚染」。未処理の下水や農業排水は処理コストを押し上げ、飲料から半導体にいたるまでのセクターを脅かしています。

数十年の間、環境保全の議論は森林や海洋が中心であり、水は目に見えない存在でした。しかし今、世界の政策が追いつきつつあります。「昆明・モントリオール生物多様性枠組」や「国連水会議」により、数十年ぶりに水安全保障が気候変動アジェンダの中心に据えられました。このリスクを認識した投資家もこれに続き、TNFDやCDP水安全保障といった枠組みを通じて、水リスクを財務上の重要な事項として扱い始めています。企業に対し、カーボンと同様に情報の開示と行動を求めているのです。

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