サイエンス

2026.04.09 18:00

テッポウエビが太陽表面温度に匹敵する熱と衝撃波を放つ仕組み

テッポウエビの仲間(stock.adobe.com)

テッポウエビの仲間(stock.adobe.com)

テッポウエビは、一見すると何の変哲もない姿をしている。体長はせいぜい数cmで、生まれてから死ぬまでのほとんどの時間を、巣穴や岩礁の裂け目に隠れて過ごしている。そんな様子からは、宇宙の物理的な極限状態に匹敵することを成し遂げる生物だとはとても思えない。

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ところがテッポウエビは、然るべき条件下では、人類が知る最も極端な尺度の一つに迫る現象を引き起こす。太陽の表面温度に匹敵する熱を発することができるのだ。

テッポウエビ科(学名:Alpheidae)のエビ、別名「スナッピング・シュリンプ(ハサミをぱちんとかち合わせるsnapに由来する英名)」は、ミクロの世界で、目にも留まらない速さで展開する見事な物理的プロセスを利用して、瞬間的にだがすさまじい現象を引き起こす。ハサミを勢いよく閉じて気泡を壊し、衝撃波と閃光、とてつもない熱を発生させるのだ。

テッポウエビは、なぜそんな現象を起こせるのだろうか。その仕組みを理解するために、テッポウエビという生き物について、それから、テッポウエビが利用する絶妙な物理現象について、掘り下げて見ていこう。

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テッポウエビと「シュリンポルミネッセンス」の発見

テッポウエビと言えば、何と言っても、ハサミの大きさが左右非対称であることで知られている。片方のハサミは比較的普通だが、もう片方は尋常ではない。見た感じ、もう一方より断然大きく、色も鮮やかだ。機能面でも、強力なパワーを高速で発揮できるようになっている。

テッポウエビならではの「スナッピング」、つまりハサミをぱちんとかち合わせる動作は、2本のハサミが機械的にぶつかり合う衝撃にすぎない、と生物学者は長年考えてきた。そうした見方が変わり始めたのは、ハイスピードカメラを使って、その様子をより詳しく観察するようになって間もなくのことだ。

転機は、科学誌『Nature』に掲載された2001年の研究で、意外な事実が明らかになった時だ。研究者らは、テッポウエビがハサミをかち合わせた時に、例の特徴的なぱちんという音のほかに、光が放たれていることに気がついた。そして、この現象を「シュリンポルミネッセンス(shrimpoluminescence)」と呼ぶようになった(シュリンプと、ソノルミネッセンスを掛け合わせた造語。ソノルミネッセンスとは、液体中の気泡が超音波で崩壊した時に発光する現象)。

観察した結果、驚くべきことが明らかになった。テッポウエビがハサミをぱちんと閉じると、水が高速で噴射される。すると、気泡が急速に生成されてすぐに崩壊する。この気泡は、壊れる瞬間に、ごく小さな閃光を放つ。前述したソノルミネッセンス、つまり、液体中の気泡に超音波を照射すると発光する現象と深く結びついた事象が起きるのだ。生物がこうしたやり方で光を発する様子が観察されたのは、これが史上初だった。

閃光はごく瞬間的なもので、肉眼では確認できない。しかし、捉えたのが研究者だけだったとしても、その存在自体が、何かとてつもないことが起きているという事実を物語っている。テッポウエビは、たとえ一瞬であれ、原子を励起して光子(フォトン)を生み出すに足る、エネルギーに満ちた環境を作り出しているという事実だ。

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翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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