サイエンス

2026.04.09 18:00

テッポウエビが太陽表面温度に匹敵する熱と衝撃波を放つ仕組み

テッポウエビの仲間(stock.adobe.com)

テッポウエビが注目されるわけ

生態学的な観点から見ると、テッポウエビがハサミを勢いよくかち合わせる手法は、世界中の海で用いられている捕食行動・防御行動の中でも、最も効果的なものの一つだ。おかげでテッポウエビは、直に相手と接触することなく獲物を無力化できる。しかも、そのスピードは驚異的だ。結果として、獲物や競合相手に立ち向かう際のリスクとエネルギー消費の両方を抑えることが可能になる。スナッピングという方法をコミュニケーション手段として活用している種はほかにもおり、それが海洋環境の音の風景を作り出している。

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とはいえ、おそらく何よりも興味深いのは、テッポウエビがエンジニアリング分野にもインスピレーションを与えていることかもしれない。2025年に熱伝導と物質移動に関する学術誌『Heat and Mass Transfer』で発表された研究では、テッポウエビによるキャビテーションの根底にある原理が今、浸漬洗浄技術(機材などを洗浄液につけて汚れを分解する技術)の分野でどのように応用されているかが明らかにされた。

工場などでは、表面に付着した汚染物質を取り除くためにキャビテーションが用いられている。手の届きにくい部分は特に、超音波洗浄や加圧洗浄では対応しきれないためだ。

コンセプトとしては単純だが、現場での実用化はそう容易ではない。制御した環境下でキャビテーションの気泡を作り出し、それを水面付近で崩壊させて局所的な衝撃波を生じさせ、粒子を取り除く。実現は困難に思われたが、今は違う。エンジニアたちが、この作業を能率的に行えるような申し分ない生物学的な仕組みをテッポウエビから教わったからだ。

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テッポウエビのハサミの構造と、ハサミをかち合わせる力学を参考にすれば、大量のエネルギーを投入しなくても、強力なキャビテーション現象を引き起こす方法がわかる。エンジニアはこの仕組みを解明し、より効果的でエネルギー効率に優れ、適合しやすい洗浄システムを開発しようと模索中だ。

より幅広い視点から見ると、テッポウエビは、問題を生物学的にどう解決すればいいのかを教えてくれる存在でもある。私たち人間は、物理の基本原理を、規模を縮小して応用してみようとは考えもつかなかったが、テッポウエビは見事なやり方でそれをやってみせたのだ。さらに、非常に目立たない生き物であっても、私たちが可能だと思っていた限界を超越できることを示した。

とはいえ、テッポウエビは何も、極度の高温や衝撃波を生み出そうという「目的」を持って生きているわけではない。本能的にハサミを閉じているだけであり、その後の出来事は、素早い動きに伴う流体力学の作用だ。それでもなおテッポウエビは、ほんのつかの間にせよ、人間にとっては、自ら光を放つ恒星の世界としか結びつかないような状態を再現しているのだ。

forbes.com 原文

翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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