テクノロジー

2026.04.19 11:30

全方向自在の球体駆動ロボ 「フィジカルAI」で生産ライン再構築へ

石田秀一|TriOrb

石田秀一|TriOrb

50年間、実用化されてこなかったロボット技術が、ついに社会実装されようとしている。その可能性は、モノの運搬にとどまらず、生産工程のあり方を変えるポテンシャルをもつ。


3つの球体と3つのモーターを備え、360度自在に動き、坂も段差も難なく移動する。空間を読み取るカメラで、ミリ単位の停止位置制御、数百キロの重量物運搬も可能──。2023年創業のTriOrbが開発したロボット「TriOrb BASE(トライオーブベース)」だ。

すでに自動車や半導体などの製造現場で実証実験が進む。幅・奥行きは約50cm、高さは15cmで、狭い空間でも移動でき、複数のロボットが協調して重量・長尺物を運ぶことも可能だ。人手不足解消や生産性向上への貢献が期待されている。26年1月には米国法人を設立し、グローバルでの事業拡大も図っている。

代表取締役CEOの石田秀一は、九州工業大学大学院で博士課程を修了後、産業技術総合研究所に入所。約10年間、製造業のプロセス診断、異常検知を行ってきたが、そこには共通する課題があった。「資材を運ぶのに、無人搬送車(AGV)を使う現場は多いですが、AGVは定められたルートを磁気テープなどで搬送することが一般的で、自由に動けません。製造現場の通路は幅80cmと狭く、機体が通れない、旋回ができないという問題が起きます。クレーンを使う場合は、安全上その時間は人が動けず、製造業でよく言われる『数分の停止で数百万円の損失』が発生していました」。

石田には、この非効率性を解決する案があった。大学院時代に、生命体工学研究科准教授の宮本弘之とともに研究を始めた「全方向移動機構」だ。技術自体は50年も前から存在するが、車輪を使う既存の機構では、重量物の運搬が難しく、段差や溝では転倒してしまい、産業化されてこなかった。石田らは、球体を使い、産総研で得た現場の課題やニーズを組み込めば、産業で使われるロボットになると考えた。科学技術振興機構の大学発新産業創出プログラムで4年間実証実験を行い、「TriOrb BASE」が完成。23年に創業に至った。

ロボット販売から新フェーズへ

同社が目指すのは、ロボットの量産・拡販ではなく「生産システムの再構築」だ。現在の製造現場では、生産ラインは床で固定されている。例えば、SUVの製造工場で軽自動車の製造も行おうとすれば、別の生産ラインをつくるか、一時的にラインを止めて装置を入れ替える必要がある。それが、生産品目に応じて、製造装置がTriOrb BASEを土台にして移動し、生産ラインを自由に構築できたらどうか。ライン増設のコスト削減や休止時間の短縮が実現し、変種変量生産が可能になる。これが、TriOrbが目指す世界だ。

キーとなるのは、ロボットが蓄積するデータだ。搭載されたカメラが取得する工場設計や移動経路、工程ごとの人の動きといったデータをAIと組み合わせて移動型生産ラインを設計・提供する。27年からは、このフィジカルAIの実現に向け、取得したデータを生産ラインの最適化に生かしていく。「生産ラインの受注にまで事業を拡大できれば、市場規模は何十兆円にも達する可能性がある。資金調達で体制を強化し、本格導入の受注を進め、3〜4年後の上場を目指す」。


石田秀一◎九州工業大学大学院生命体工学研究科博士後期課程修了。産業技術総合研究所で製造業向け生産システム/プロセス評価の研究に10年取り組む。自律移動ロボットの競技会で世界大会技術部門2位。

文=露原直人 写真=吉澤健太一

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