サイエンス

2026.04.05 18:00

脳も骨もなく体の94%が水、「世界最長」の海棲生物キタユウレイクラゲ

Shutterstock.com

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1865年、マサチューセッツ州の海岸に、1体の死んだクラゲが打ち上げられた。研究者たちが測定したところ、その傘の直径は2.1mと、ほとんどのドア幅よりも広かった。さらに衝撃的だったのは、傘から伸びた触手で、長さが36.6mにも達していた。これは、現生動物として最長の部類に入ることを意味する。あのシロナガスクジラさえ凌駕する長さだ。

そのクラゲとは、キタユウレイクラゲ(学名:Cyanea capillata)だ。同種は今もなお、地球上で最長級の動物と考えられている。これほど長い体を持つことは、単なる分類学上の補足情報ではなく、この世界に関する、実に奇妙な事実を示している。これまで記録されたなかで最長級の動物は、ゼラチン状で脳も骨もない体を持ち、1000本を超す有毒な触手をなびかせて北極海を漂う捕食者なのだ。

しかし、我々は通常、動物をそのような視点では捉えない。「最大の動物」といえば、ほとんどの場合「最も重い」ことを意味し、質量という点で言えば、現生動物ではシロナガスクジラが依然として文句なしの首位だ。しかし、長さもまた正当な大きさの尺度であり、その基準で言えば、シロナガスクジラはこのクラゲに完敗している。

世界最長級の動物は、どのような体をしているのか

キタユウレイクラゲの傘は8片に分かれており、そのため8つの角を持つ星型のような外観をしている。各片からは約70~150本の触手が伸び、きれいな4列に並んでいる。大型の個体は、鮮やかな深紅から濃い紫の体色を持つのに対し、小さな未成熟の個体は、淡いオレンジ色をしている。大きな成体では、触手の総数が1000本を超えることもあり、その一つ一つに刺胞(しほう)と呼ばれる毒針のような構造を備えた細胞が並んでいる。 

上から見ると8つの角を持つ星型のような外観をしている(Shutterstock.com)
上から見ると8つの角を持つ星型のような外観をしていることがわかる(Shutterstock.com)

特筆すべきは、刺胞が必ずしも受動的な構造ではない点だ。これらは、加圧された細胞レベルの銛(もり)のような働きをする。接触や化学的刺激を受けると、700ナノ秒(秒速18m、時速約64km)を切る速度で射出され、触れた対象に毒を注入する。これは、生物界全体で最も高速な力学的反応の一つだ。

キタユウレイクラゲの触手が異常に長いのは、決して偶然ではない。というのも、キタユウレイクラゲは待ち伏せ型の捕食者だからだ。そのゆっくりとした傘の開閉運動では、わずかに前進するくらいしかできない。そのため、長距離を移動する際には、主に海流に乗って移動する。

キタユウレイクラゲは獲物を追いかけることができないため、その生存戦略は、自らを障害物に変えることにある。クラゲは、餌となる魚の上方に位置取り、触手を大きく広げながらゆっくりと降下し、触手を網代わりにして獲物を捕えるのだ。この網が長ければ長いほど、獲物を捕獲できる範囲は広がる。そして、生息域である冷たく栄養分の少ない北極海では、獲物も豊富ではないため、リーチがスピードに勝る場合がある。

しかし、そこには力学的な代償も伴う。学術誌『Fluids』に2019年に発表された研究が示唆するように、あまりに長い触手や口腕(腕状の突起)は、傘の周囲における水の渦の形成を妨げる。こうした水の渦は推進力を支援するため、触手がない状態と比べて、クラゲの推進効率を最大80~90%低下させる可能性がある。

これは、非常に大きな進化上のトレードオフだ。長い触手があることで、キタユウレイクラゲは優れた捕食者になれるが、その一方で、泳ぎ手としては著しく劣った存在となる。しかし、移動の主たる原動力を海流に頼る環境において、このトレードオフは、同種にとって有益であることが証明されている。

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翻訳=高橋朋子/ガリレオ

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