サイエンス

2026.04.05 18:00

脳も骨もなく体の94%が水、「世界最長」の海棲生物キタユウレイクラゲ

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体の大部分が水でできている利点

キタユウレイクラゲの体の仕組みにおいて、おそらく最も奇妙な点は、その94%が水で構成されていることだ。さらに彼らは、完全な放射相称性の体を持ち(体を対称に分ける面が複数存在し、全方向からの刺激に対応しやすい)、なおかつ胚葉(動物の初期の胚を構成し、のちに組織や器官を形成する細胞の層)が外胚葉と内胚葉の2層しかない。

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彼らには、骨も軟骨もないし、脳(中枢神経系)も持たない。この生物の体は基本的に、筋肉質の傘、袋状の消化器官、そして毒を射出する巨大な触手群からなり、それらがすべて、間充ゲルと呼ばれるゼラチン状の物質によって結びついている。この間充ゲルもまた、大部分が海水で構成されている。

こうした構造には、一つの大きな隠れた利点がある。2013年に学術誌『PLOS One』に発表された研究によると、構築と維持に要するコストが極めて少ないのだ。骨や筋肉、臓器組織には莫大な代謝エネルギーが必要だが、間充ゲルにはその必要がない。

これこそが、キタユウレイクラゲが時として、驚異的な大きさに成長できる理由だ。ほとんどの大型動物のように、大きな体を維持するためのカロリーを必要としない。この点は、栄養分の少ない北極海において極めて重要だ。しかし反面、そのような体はとてつもなく脆弱だという欠点もある。触手は頻繁に切れたり絡まったりするし、組織も損傷しやすい。

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キタユウレイクラゲが注目される理由

その壮大さ以外に、キタユウレイクラゲが重要視されるのは、海洋の健康状態を評価する指標として用いられることが増えているからだ。

気候変動や、海の富栄養化、乱獲、沿岸開発、種の移入などが原因となって、クラゲの大量発生が増えていると考えられている。しかしこれらの因果関係については、研究者間でも意見が分かれる。

学術誌『Frontiers in Marine Science』に2024年に発表されたレビュー論文によると、これらの主張を裏づける確かな証拠は、依然としてかなり乏しい。クラゲの大量発生の回数は直線的に「増え続けている」と広く信じられているが、この説は近年疑問視されている。

『PNAS』誌に掲載された2012年の研究によると、データが示唆しているのは、クラゲの個体数が世界的に10年単位の周期で増減を繰り返しているということだ。しかし1970年代以降は、全体的な個体数の微増が観察されている。

これは、海水温の上昇や、競合種の乱獲、沿岸部の富栄養化、低酸素海域の拡大と相関している。注目すべきは、クラゲが他のほとんどの動物と比べて、これらの環境条件に高い耐性を持つ点だ。

その背後にあるメカニズムは、一種のフィードバックループだ。乱獲により、クラゲを捕食する魚や、餌の動物プランクトンをめぐって競合する魚が減少する。海水温の上昇は、クラゲの成長と繁殖を加速させる。沿岸から流れ込む水は、魚の幼生よりも、「ゼラチン質のプランクトン」のようなクラゲにとって有利な栄養条件を作り出す。つまり、我々が海を破壊すればするほど、海にはクラゲが増えていくのだ。 

「最大」級の動物である意味

シロナガスクジラは依然として、最も重い現生動物だ。組織の詰まった体を持ち、恒温性で、代謝が極めて活発な生物であり、生命を維持するためだけに、1日4トンのオキアミを摂取する必要がある。

一方、キタユウレイクラゲは、その正反対に近い存在だ。変温動物で、薄く広がった体を持ち、代謝は最小限で、体の94%が海水で構成される。その体を結びつける物質もまた、クラゲが生息する海そのものからできている。

両者とも、それぞれの基準において、地球上で「最大」級の動物だ。質量の面ではクジラが勝り、長さの面ではクラゲが勝る。その上で、温暖化が進み、酸性度が高まり、魚が激減し、流入水で富栄養化するという変化を示す海においては、生存コストの低い体を持った動物の方が、より長い未来を生き延びることになるのかもしれない。

forbes.com 原文

翻訳=高橋朋子/ガリレオ

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